月に触れる

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「僕には分かります。君の曲は金にならないよ。どういう意味か、分かる?」  彼女はまたぽかんと口を開けていた。でもさっきのとは違う。なんでそんなことを言うの? 何を言ってるのか分かりたくない。そんな顔だ。  その彼女に僕は、駄目押しの一言を与える。 「その曲じゃコンクールなんて、話にならないって言ってるんですよ」  昔から耳が良かった。色んなものが音に聞こえていた。だからこそ分かる。今僕は彼女の夢のかけらをこの素手で手折った。その音が確かに聞こえた。  ポキン、と呆気ない音が響く。  手に感触が残るほどに。  彼女に背を向け階段を登った。一歩踏み出すたびに体が痛む。  他人に蹂躙され、自分を殺し続けた人間はこうも捻くれるものなんですよ。  最後にアナタに抵抗できてよかった。もう僕は、アナタのもとにこれ以上犠牲者を送り届けたくない。僕の二の舞、三の舞を見るのはたくさんだ。  サヨナラ、ロックンロールの神様。  最後に強烈な痛みをどうもありがとう。  だから僕も最大級の反撃をアナタに贈るよ。  彼女はアナタの元には絶対に送らない。  あぁもう、気持ちよくって仕方がないわ。
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