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その日は俺にとって忌日だった。
だって秘かに想いを寄せていた幼馴染の優香が俺ではない男のものになってしまったから。
それなりに裕福な家柄、女受けする見た目に胡坐をかいてやりたい放題だった俺を唯一窘めてくれたのが優香だった。
品行方正で清廉潔白な三歳上の兄貴と一緒になってやんちゃな俺を時には叱り、時には庇い、時には優しさをくれた。
跡取りとなる兄貴にしか関心のなかった両親の代わりに何かと俺を構ってくれた優香が今日、俺に告白した。
『わたしね、結婚するの』
優香が誰かと付き合っているだなんて全然知らなかった。ましてやその結婚相手がまさか兄貴だったなんて──
それを訊いてしまった瞬間、俺の中にあった兄貴や優香に対する今までのことが全てどうでもよくなってしまった。
いいや、それだけじゃない。
もう何もかも全てがどうでもいいと思ってしまった。
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