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(この女……利用出来るかな)
優香を吹っ切るためのなんらかのきっかけになるだろうかという目論見の中、俺は本腰を入れて演技することを決めた。
「あの…病院へ行かないのならせめて手当だけでもした方が」
「…ありがとうございます。でも…俺、行くあてもお金も無くて」
「え?」
「……孤児院育ちで身内が誰もいないんです。住み込みで働いていた寮は…酷い先輩たちにいじめられて追い出されて…」
「……」
「それで…街中をフラフラしていたら…女の人に声を掛けられて…そのままついて行ったらあの怖い人たちに絡まれて」
「……」
我ながらいい演技をするんじゃないか?と心の中で自画自賛した。
そう思った通り、目の前の女は如何にも可哀そうな身の上の俺に同情する言葉を連発していた。
「じゃあ…とりあえず……傷が良くなるまで家に…いますか?」
女がそういった瞬間、俺は心の中でガッツポーズをした。
(案外チョロいな)
そうして俺を拾った女──森上鈴子の部屋に俺は猫を被ったまま居座ることになったのだった。
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