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「沙織、無理して言わなくていいから」
「聞いて欲しいの。」
私はお墓を見つめた。
「ねぇ、私。まだそっちには行かないから、
やりたい事が出来たの。1人じゃないわ、浩太が居てくれる」
そう言ってパンを、お供えした。
袋には動物のパン、まるで動物園だ。
浩太はあれからも沢山の動物のパンを作った。
そして2人でワイワイ言って、試行錯誤するのが楽しい。
優しい店長と奥さん、無邪気に懐いてくれる菫ちゃん。
初対面の私に入れてくれた、ココアの味。
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「浩太との出会いは最悪だったわね」
「お前が言うな」
「でも、初めて抱きつかれた時は、びっくりした!」
「いや・・あれはその、テンションが上がって」
「思わずかな?」と浩太の顔を覗き込んだ。
「か、揶揄ってるだろ⁉」
「私、浩太が好きよ」
「やっぱり揶揄ってる!」
「揶揄ってる人の、プロポーズをOKなんかしないわ」
でしょ?と私。
見つめられた浩太が真っ赤になってる。
耳まで赤い、可笑しい。
この店で私、変わったかな?
もう振り向かない。
目的が出来た。
一緒に歩いてくれる人も出来た。
浩太ともっともっと、パンを作っていきたい。
子供連れの常連から、動物のパンの依頼を受ける。
次はモルモット作って!
俺は恐竜!
浩太と顔を見合わせる。
「お前、凄いのを考えるな?恐竜なんて難しい。
メチャクチャ待たせるぞ、いいか?」
「良い、待つ!」
試行錯誤して、悩むけど。
さんざん疲れるけど。
出来た時の喜び、受け取った子供の笑顔に心の底から暖かくなる。
まるで魔法。
私に張り詰めた氷は、この店で溶かされていった。
暖かい、まるで家族見たい。
初めて入れて貰った、ココアの様に。
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