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その時、カランとベルが鳴った。
振り返ると、この店の店主がドア越しに見つめる。
「ごめんなさい、営業妨害ですよね!」
私が居るのは、街の焼き立てパン屋さん。
鼻に香ばしい香りが届く。
でも店主は「寒くない?入りなよ」と言ってくれた。
肩に積もった雪を払う。
毛糸の帽子も外し、店を見た。
陳列されたパンの数。いろんなパンが並んでる。
「今日はもう閉店にするから、ゆっくり温まっていきなさい。
ココア、飲むかい?」
「は、はい!」
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ココアを入れたマグカップを渡され「待ち人は来なかったのかい?
いつも店の前で、待ち合わせしてるよね」と聞かれた。
私はうつむいた。マグを持つ手が震える。
「・・来ません。亡くなったから」
「ゴメン、悪い事を聞いたね」と慌てた声。
「いいんです。もう2か月も経つのに、ここに居たら来てくれると
思う私がバカなんです・・」
「バカじゃない、2か月で忘れろなんて。好きだったんだろう?
いつも嬉しそうに待ってたよね」
「本当なら先月に結婚してました。だから・・」
いつの間にか、涙があふれる。
止まらない。
会ったばかりの人の前なのに・・・
「・・ごめんなさい」
店主は気の済むまで泣かせてくれた。
気遣うように、わざと窓辺に立って煙草を吹かせた。
窓から、ハラハラと雪が舞う。
あの人を亡くして、こんなに大泣きしたのも初めてだった。
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「ココア、すっかり冷めちゃったね」
「あ、私のせいです。ごめ・・」
言葉を遮るように店主は言う。
「苦しい時はため込まないで。泣いてもいいんだよ」
「入れ直してくるね」
そう言って奥に消えた。
言葉が胸にしみた、何て優しい人なの?
バツが悪い、親切を踏みにじった気がする。
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