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⁑ 温もりをあなたに ⁑
3回忌にお墓の前で手を合わせた。
結婚するはずだった人、今は眠ってる。
永遠の眠りに落ちた。
##
事故死だった。バイク便の彼はよりによって台風の嵐の中へ配達した。
警報が鳴った。床下浸水、雨は止まない。強風注意報。
雨で視野が悪い、車は水に浸かり動けない。
そんな日になぜバイク便は休まないのだろう。
ありきたりのピザ屋、違うのは本格的な石窯がある事。
美味しいと評判だった、副店長の彼はバイトの子の代わりに走った。
ーーこんな日に出るもんじゃない、俺は責任があるから。
ピザを頼んだ人に悪気は無いのか。
お腹が減って外に出られないから頼んだ、それだけだろう。
深く、考えもしないで。
洪水警報が鳴り、当たり前のように高潮にバイクごと飲まれた。
海辺の街、海岸線を通る道路。
高台の幼稚園で働く私は無事だった。
園児達を一か所に集め、それぞれの組に先生が付いた。
停電。暗い中で騒ぐ子供達、落ち着かせるので一杯だった。
彼にメールもラインもしてない、仕事中でとんでもない今は
それどころじゃない。ピザ屋に居るはず、副店長だから。
いいえ、この天気だし休みかも。
きっと台風に足止めされて、店に居るんだ。
信じて疑わなかった。なんてバカなんだろう。
後からニュースで知って愕然とした。
誰が悪いの?
バイトと変わった彼?店に注文した客?
天災という逃れられない運命?
運命。そんなの信じない、海が憎かった、怖かった。
台風なんて来なければよかった。
記録的な降水量と多くの被害を出してしまった。
日常が無くなった。
いいえ、続いてる?悪夢という日常。
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手を合わせるもう1人に私は言った。
「私ね・・彼が亡くなって1年目は泣いてばかりだったの。
家に籠って、誰にも合わず。働いてた幼稚園も辞めたわ」
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