⁑ 温もりをあなたに ⁑

1/5
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

⁑ 温もりをあなたに ⁑

 3回忌にお墓の前で手を合わせた。 結婚するはずだった人、今は眠ってる。 永遠の眠りに落ちた。            ##  事故死だった。バイク便の彼はよりによって台風の嵐の中へ配達した。 警報が鳴った。床下浸水、雨は止まない。強風注意報。 雨で視野が悪い、車は水に浸かり動けない。 そんな日になぜバイク便は休まないのだろう。 ありきたりのピザ屋、違うのは本格的な石窯がある事。 美味しいと評判だった、副店長の彼はバイトの子の代わりに走った。 ーーこんな日に出るもんじゃない、俺は責任があるから。  ピザを頼んだ人に悪気は無いのか。 お腹が減って外に出られないから頼んだ、それだけだろう。 深く、考えもしないで。  洪水警報が鳴り、当たり前のように高潮にバイクごと飲まれた。 海辺の街、海岸線を通る道路。 高台の幼稚園で働く私は無事だった。 園児達を一か所に集め、それぞれの組に先生が付いた。 停電。暗い中で騒ぐ子供達、落ち着かせるので一杯だった。 彼にメールもラインもしてない、仕事中でとんでもない今は それどころじゃない。ピザ屋に居るはず、副店長だから。 いいえ、この天気だし休みかも。 きっと台風に足止めされて、店に居るんだ。 信じて疑わなかった。なんてバカなんだろう。 後からニュースで知って愕然(がくぜん)とした。 誰が悪いの? バイトと変わった彼?店に注文した客? 天災という逃れられない運命? 運命。そんなの信じない、海が憎かった、怖かった。 台風なんて来なければよかった。 記録的な降水量と多くの被害を出してしまった。 日常が無くなった。 いいえ、続いてる?悪夢という日常。               ##  手を合わせるもう1人に私は言った。 「私ね・・彼が亡くなって1年目は泣いてばかりだったの。 家に(こも)って、誰にも合わず。働いてた幼稚園も辞めたわ」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!