ちょっとお前調子こきすぎなんでそこの会議室まで来てくれやしませんかね?ちなみに拒否権はねぇです。

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ちょっとお前調子こきすぎなんでそこの会議室まで来てくれやしませんかね?ちなみに拒否権はねぇです。

「ちょっとお前調子こきすぎなんでそこの会議室まで来てくれやしませんかね?ちなみに拒否権はねぇです」  怖い顔した先輩に、青筋立てながら言われた時点で、僕の運命は決まったも同然だった。  ああ、何がいけなかったんだろう、と僕は綺麗に黒く染めた頭を抱えて考える。一生懸命、この会社の営業利益に貢献しようと売り込みを頑張ってきたわけで、人に迷惑をかけるようなこと(ましてや古参の先輩方の不興を買うようなこと)は一切したつもりもないのだが。  僕らの中で、二番目に長く此処にいる先輩がこう言うからには――どこか、気づいていないところでミスをしたということなのだろう。  僕は血の気が引いた顔で、そろそろと先輩の後をついていった。そして、会議室のドアを開いた瞬間、確信することになるのである。  あ、これ、間違いなく晒し上げのコースやんけ、と。 「よう、黒蜜キナコ君」  一ミリも目が笑ってない笑顔で言ってくれたのは、茶色の斑が入った青髪がクールなチョコミント先輩である。 「よく来たな。まあ、座れや」  同じく絶対零度ブリザードを向けてくるのは、鮮やかな緑色の髪を靡かせた抹茶先輩だ。  僕は怯えながら、お誕生日席――ならびに罰ゲームな席へと誘導され、着席することになった。そう、この会議室には、滅多に全揃いでお目にかかることのない先輩達がほぼ全員ずらりと並んでいるのである。  僕らは全員、アイスクリームだ。  比喩ではない。文字通り、アイスクリームの化身――いや、日本の文化に倣うのならアイスクリームの付喪神のようなもの、とでも言えばいいだろうか。  ハーゲンゲッツ社のアイスクリームとして売り出されている僕らには、全員が違う味を担当している。最初に僕を案内してくれたピンク髪の古参の先輩はストロベリー味。会議室で最初に声をかけてきたのがチョコミント味。二番目が抹茶味。そして僕は、最近売り出された黒蜜キナコ味というわけである。  誰がどの味であるのかは見た目ですぐわかる。全員髪の色が、味に対応したカラーになっているのだから。 「あ、あの……あの、僕、何かやらかしましたか?」  とりあえず、何が起きてるのかさっぱりだが、先輩達の怒りを収めなければならない。アイスクリーム界の常識――とにかく最初の方に売り出された古参の先輩方の機嫌を損ねたら、自分達新参の味のアイスクリームは生きていくことができないのである。  特に、ストロベリーや抹茶といったいわゆる“王道”の味の先輩方は怖い。そして厳しい。彼らの不興を買ったら最後新参はあっさりと“販売中止(クビ)”を命じられることになるのである。それだけは、なんとしてでも避けなければならなかった。特に僕なんぞは、まだ売り出されて三ヶ月しか過ぎていないのである。たった三ヶ月の命なんて嫌すぎる、なんとか期間限定の身分から脱出成功したばかりだというのに!
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