ちょっとお前調子こきすぎなんでそこの会議室まで来てくれやしませんかね?ちなみに拒否権はねぇです。

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「……すみません、調子に乗ってたつもりはないんですけど……そう見えたんでしたら、謝ります」  普通に営業頑張っただけなのに、なんでこうも嫉妬と敵意を向けられなければならないのか。  正直納得は全く行ってないわけだが――だからといって、こんな面倒くさい先輩達にこれ以上目をつけられるのもごめんなのである。  自分がやりたいことは一つ。これからもバーゲンゲッツ社の売上に貢献し、“黒蜜キナコ味”を今後共一人でも多くのお客様に食べて美味しいと言って貰うこと。望むことはただ、それだけなのだ。社内のアイスも溶けそうなドロドロの争いに巻き込まれている暇など微塵もないのである。 「ふん、本当に反省したのか?」  みっともなく泣いているソーダ先輩の頭をつんつんしながらジト目で言ってくるのはクッキー味の先輩だ。その隣では、クッキー味と同時期に発売された経歴を持つカフェラテ味の先輩がうんうんと頷いている。 「どうにも最近の新人はイキがっている連中が多くていけない。ここらでもう一度新人研修をやり直さないといけないと思っていたところだ」 「そうだ、その通りだ!」 「え、新人研修って……!」 「決まっている!炎天下の屋根のない某スタジアムで、アイスを売って売りまくる刑……じゃなかった、修行だ!」 「えええええええええええ!?」  今さらっと刑って言った!刑って言った!  そしてその某スタジアムとやら、覚えがあるのである。S県にある屋根もなけりゃ当然冷房もないあの野球場のことだ。新人はあそこで、文字通り溶けるまでアイスを売らされるのである――ビール売りのおねえちゃん達に混じって。  何が虚しいって、自分達は全員男の外見だということ。可愛い姉ちゃん目的でアイスを買ってくれるオッチャンは一人も引っ掛けられないということである。そして何より暑い。暑いったら暑い。あそこで何時間もアイス売りなんぞしてみろ、売り切って全部食べて貰う前に自分達がどろどろのヨーグルトになってしまうのは明白ではないか!アイスだけど、ヨーグルト! 「い、いやですううう!そ、それだけは!あの地獄だけは、勘弁!」  こんなものリンチだ!パワハラだ!僕が絶叫して、会議室から逃げ出そうとしたその時だった。
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