ちょっとお前調子こきすぎなんでそこの会議室まで来てくれやしませんかね?ちなみに拒否権はねぇです。

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「お前達、何をしているのかね?」  どっしりとした、威厳のある低い声がした。ドアが開き、現れたのは――。 「バニラ先輩!お疲れ様です!」  その場にいたアイス達が全員立ち上がり、最敬礼をした。そう、バーゲンゲッツ社のアイスの最古参の味にして、全てのアイスクリームの頂点に立つ存在。  一人重役出勤でもフツーに許される――それがバニラ先輩という存在なのである。 「皆がオフィスにいないからどうしたものかと思ったんだが……新人をまた、虐めているのではないだろうね?」  長身にがっしりとした身体、真っ白な髭を生やしたダンディーなオジサマといった出で立ちのバニラ先輩に睨まれて、他の先輩達は“滅相もありません!”とぶんぶんと首を振った。 「ちょっと新人教育をしていただけでして!な、なあ黒蜜キナコ!」 「え?ええ……?」  嘘つけ、どう見たって処刑台送りにしようとしてたやんけ、と思ったがストロベリー先輩に圧力をかけれては否とは言えない。は、はあ、と曖昧に肯けば彼は満足げに笑みを見せた。 「というわけですから!今会議も終わったんで!全員仕事に戻ります。行くぞ黒蜜キナコ!」 「そうか。……いや、ちょっと待て、黒蜜キナコ君は残りたまえ」 「へ」  これでようやく、晒し上げから解放される。先輩達に殺意向けられなくて済む――そう思った矢先のことだった。  何を考えてるのかわからない、というかぶっちゃけ天然疑惑もあるバニラ先輩は。あっさりと爆弾を投下しいってくれたのである。 「次の●●社との試食会に、是非君もという話が持ち上がっているのだ。協力してもらえないかね?」  それはなんとも、名誉ある提案だった。売上をさらに伸ばし、多くの人に食べて貰う絶好の機会である。  機会では、あるのだが。 「あ、ありがとう、ございます……!嬉しい、です」  背中に突き刺さる、凄まじい殺意の矢。何も他の先輩達の前でそれを話さなくてもいいのに!  僕がパワハラ地獄から無事脱出できるのは――どうやら相当先のことであるらしい。
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