対称世界のあなたも綺麗

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「今日もいい買い物が出来たぜ、見てくれよこれ!」 見れば手にでっかい紙袋を持っている。なんかパンみたいなのはみ出てるし、絵に描いたような外国人の買い物だった。 本当に楽しくて仕方ないみたいな笑顔のまま、紙袋の中に手を突っ込んでいる。手品の種明かしみたいに、丁寧に中身を取り出す。 「これさ! 偶然見つけたんだ、俺の国でポピュラーなコンビーフ! 輸出していないのかわからないが、日本の店じゃ見かけなくてな、好きでよく食べていたんだ」 牛のイラストが描かれた缶詰だった。パイン缶みたいなサイズの。 「でっか!」 たしかにそこら辺のスーパーでは見たことがない。 「お前コンビーフ好きとか言ったことなかったじゃん」 ジャンキーな食べ物も食べるとは言っていたけど、コンビーフ好きとか聞いたことがない。 「知ってたらハンバーガーとか作ってやったのに」 パン作りの幅が広がろうというものを。なんて、素っ裸で考えることじゃないか。 「お前のパンはそのまま食べるからこそ素材の味が引き立っていていいんだ! ハンバーガーなんてもっての他さ!」 なんだかわかるようなわからないようなことを言って、ウンウン頷いている。
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