対称世界のあなたも綺麗

8/71
378人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
彼の逆三角形の体格の方が、よっぽど芸術品みたいなものだと思う。俺なんかはどれだけ鍛えても元がこんなもんなんだか、彼みたいな隆々な見事な筋肉には仕上がらない。 「お前もいい体してんじゃん」 ちょっと笑いながら言う。 彼は自分の体を爪先の方から眺めながら、初めて手に入れたみたいにペタペタと触れている。 「いいや、俺はお前くらいのほっそりした体つきに憧れるよ。自分の体が嫌いわなけではないが、正直もう少ししなやかな体が欲しかったかな。まぁ、生まれ持ったものだから、それ相応の使い方をしてこんな格好なんだが」 無い物ねだりというのだろうか、お互い欲しいものは違うようだ。 「んー、お互いがお互いの欲しい体持ってるって感じかもな」 「その通りだな。だから惹かれあったのかもしれない」 「かな」 なんか今更な話題かもしれないけど、身のない話を改めて確認したところでそろそろ出ることにする。 「のぼせそうだから出るからな」 告げて軽く背伸びして彼の頬にキスする。 「俺もすぐ出るから待っていてくれ」 彼は少し慌てた。親とはぐれるのを戸惑う子供みたいだった。 「逃げねーから大丈夫、ゆっくり入れ」 必死すぎて可愛い。ふっと笑いながら今度こそ脱衣場へ出る。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!