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晴くんの細長い指が、私の顎を掬い上げる。
「少し社会勉強をするべきだと言ったろ。こういうことについても、沙弓は知らなさすぎる。……俺が教えてやるから」
徐々に近づいてくる彼の顔。さすがにキスをされると予想できた私は、顔を逸らして抵抗した。
「ま、待ってよ、晴くん。本当に勉強なの?本当に、知らないとダメなこと?」
「ああ。ダメだ」
晴くんがそう言うなら、そうなのかな……?しっかり者の晴くんは、ここで必要なことを全部教えてくれる。
恥ずかしくて逃げ出したいけど、本当に必要なことなら、私……。
「は、晴くん……」
涙目になりながらキュッと目を閉じた。また彼の顔が近づいてくるのが分かる。
晴くんの前髪が私の額に触れたとき。私の脳裏に、あの頃の“薫くん”の姿が浮かんだ。
『泣かないで。沙弓ちゃん』
薫くん……!
「やっ、やっぱり待って……!」
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