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──ピン、ポン……。
そのとき、軽やかなのに重苦しい、無機質なチャイムの音がした。
晴くんはピタリと動きを止め、勢いの反動で彼の前髪が揺れた。私も目を開ける。チャイムはこの2LDK全体に響き、音が消えた後もしつこく耳に残った。
「……は、晴くん……」
「シ。静かに。……誰か来た」
唇に人差し指をあてたまま、晴くんは体を起こして玄関の方向を睨んだ。
……助かった。彼の体が離れてそう思ったけど、ここを訪ねてくる人には私も心当たりがなく、引き続き晴くんの服の裾をそっと掴む。
「宅配便さん……?」
私が訪ねると、晴くんは首を横に振った。
「違う。今の音はこの部屋の玄関のインターフォンだ。その前にエントランスのインターフォンが鳴らなかったということは……このマンションの住人だ」
「ご近所さん? それなら、ご挨拶しなきゃ!」
「待て。……沙弓はいい。俺が出てくる」
ポン、と私の頭に手を置いて、晴くんは静かに、玄関へ向かった。
覗き穴を覗く。すると、晴くんは眉を寄せた後で、目を見開いた。一体誰? 壁に貼り付く私も気になって目を細める。晴くんは混乱した様子で、それでもゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こうに現れた人を目の当たりにすると、私もその姿に釘付けになった。
「久しぶり、ふたりとも」
──薫くん。
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