2.薫くんとキス、晴くんには内緒

1/23

117人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ

2.薫くんとキス、晴くんには内緒

******* 翌日、日曜日。 朝目覚めると、しっかりスーツに着替えた晴くんが部屋から出てきた。 私は何となく早起きをし、無意味にエプロンまでつけてキッチンの掃除をしていたが、朝食の準備をする勇気は出ず、手ぶらで晴くんを迎える。 「おはよう、沙弓」 「おはよう晴くん。……薫くんは?」 「まだ寝てる。薫は今日休みだから、起こさなくていい。起きたら勝手に帰ると言ってたしな」 晴くんはいずみ本舗の販売戦略部で部長補佐として修行中で、今は若者向けにSNS映えする新商品の売り出しに注力しているのだとか。 カフェの試行店舗もうまくいっていて、この機会を逃せない、とお休み返上で働いている。 一緒にお店に行ったこともあるけど、職人さんたちの信頼も厚くて、晴くんは本当にすごいんだと実感した。 「沙弓、聞いてるのか」 「あっ、うん」 いいのかなぁ、私。 簡単にお仕事をお休みさせてもらってるのに、お料理ひとつ作れって言われないなんて……。ちゃんとお勉強になってる? それとも、晴くんに甘やかされてるのだろうか。 エプロン姿の私に見送られながら、晴くんは靴を履き、カバンを持った。 「じゃあ行ってくるから」 「うん。気を付けてね」 「……沙弓、薫には気をつけろ」 「え?」 「あまりふたりきりになるな。起きたらすぐ部屋へ帰すんだ」 晴くんはふわりと頭を撫でただけで、私の返事を待たずにドアを開けて出ていった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加