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2.薫くんとキス、晴くんには内緒
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翌日、日曜日。
朝目覚めると、しっかりスーツに着替えた晴くんが部屋から出てきた。
私は何となく早起きをし、無意味にエプロンまでつけてキッチンの掃除をしていたが、朝食の準備をする勇気は出ず、手ぶらで晴くんを迎える。
「おはよう、沙弓」
「おはよう晴くん。……薫くんは?」
「まだ寝てる。薫は今日休みだから、起こさなくていい。起きたら勝手に帰ると言ってたしな」
晴くんはいずみ本舗の販売戦略部で部長補佐として修行中で、今は若者向けにSNS映えする新商品の売り出しに注力しているのだとか。
カフェの試行店舗もうまくいっていて、この機会を逃せない、とお休み返上で働いている。
一緒にお店に行ったこともあるけど、職人さんたちの信頼も厚くて、晴くんは本当にすごいんだと実感した。
「沙弓、聞いてるのか」
「あっ、うん」
いいのかなぁ、私。
簡単にお仕事をお休みさせてもらってるのに、お料理ひとつ作れって言われないなんて……。ちゃんとお勉強になってる?
それとも、晴くんに甘やかされてるのだろうか。
エプロン姿の私に見送られながら、晴くんは靴を履き、カバンを持った。
「じゃあ行ってくるから」
「うん。気を付けてね」
「……沙弓、薫には気をつけろ」
「え?」
「あまりふたりきりになるな。起きたらすぐ部屋へ帰すんだ」
晴くんはふわりと頭を撫でただけで、私の返事を待たずにドアを開けて出ていった。
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