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晴くんが出ていったのを見計らったのかのごとく、ドアが閉まってから物音がした。
身構えたが、この家には私の他に薫くんがいるのだと思い出す。
「おはよう、沙弓ちゃん」
目をこすりながら薫くんが起きてきた。昨日着てきた私服をしっかりと着ていて、寝起きでも相変わらず、爽やかな王子様だ。
「おはよう、薫くん! ごめんね。私、朝ご飯作ってなくて……」
こういうときは、やっぱり私がふたりに朝食を振る舞うべきだった。
しかし冷蔵庫の中のものを見ても何を作れるのか思い付かないし、ほんの数回挑戦したことのある卵料理も、あれは卵焼きとか目玉焼きとか、単純なものがすごく難しい。もっと練習しなければ、とても人には振る舞えない。
情けなくて、うつ向いて胸の前で両手を絡める。すると薫くんの手がそれをふわりと包み込んだ。
「優しいね、沙弓ちゃん。無理やり泊まった僕に朝食を出そうと思ってくれるなんて。その気持ちだけで十分だよ。……朝起きたら沙弓ちゃんがいてくれるだけで、僕は……」
「……薫くん?」
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