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マーケットは近辺のタワーマンションに住む人たちの御用達らしく、中は優雅なマダムたちで溢れかえっていた。野菜コーナーや鮮魚コーナーがライトアップされていて、どこを見ても美味しそうに見える。
薫くんはマダムたちの視線をこれでもかと集めていて、手を繋いで隣を歩いていると、こっちまで緊張してきた。
ここに来るまでに相談して、本日のメニューはカレーライスに決まっていた。
私のために簡単なものを選んでくれたのだと思ったけど、薫くんいわく「カレーライスが嫌いな男はいないよ」とのことなので、安心した。
じゃがいもと玉ねぎ、人参はあったから、ルーやお肉、付け合わせのサラダの材料を選んでいく。
「ハチミツを入れようか。晴は意外と甘口が好きだから」
薫くんはクマの形の透明容器に入ったハチミツのボトルを、一本カゴに入れた。
よく知ってるなぁ。
「薫くんはどんな味が好きなの?」
「ん? 舌が燃えるくらい辛いやつかな」
「えっ……」
中辛のルーにハチミツを入れようと買い集めたところだったから、私は選ぶ手を止めた。
「ふふ、嘘だよ。大丈夫、甘いのも好きだよ」
本当に……?
不安気に顔を覗き込んだが、レジへと背中を押された。緊張したが、お金を出すところまで見守ってもらう。
メニューを決めて、食材を選んで、自分でお会計をした。私はこの一度の買い物で格段に経験値を積めた気分になり、もう今日のミッションを半分くらい終えたように感じた。
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