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──マンションまでの帰り道。
薫くんが荷物を持ってくれて、反対の手をまた私と繋いでくれる。
成長してからはこういうことを恥ずかしがってしてはくれなくなった晴くんと違い、薫くんは堂々としていた。
「薫くんは……恋人はいるの?」
ふと、疑問に思ってそう尋ねた。薫くんはこちらを見て、足を止める。
薫くんは昔からとてもモテるのだ。女の子の扱いに慣れているのは、今までたくさん恋人がいたからなんじゃないのかな。
私はまだ誰ともお付き合いをしたことがないけど、薫くんは、きっと……。
「いないよ。どうして?」
ホッとして、胸の痛みがとれた。
「だって薫くん、格好いいから……。憧れる女性はたくさんいるんだろうなぁと思って」
「ふふ、ありがとう。でも、ちゃんと恋人と呼べる人はいなかったな。下品な女ばかりで記憶にも残ってないよ」
え……?
彼は歩き出したのに、今度は私が足を止めていた。
「どうしたの? 沙弓ちゃん。行こう」
薫くんは相変わらず笑顔で手を引いて、午前の麗らかな道のりをゆったりと進んでいく。
……聞き間違いじゃないよね? 今、薫くん、今までの女性のことを“下品な女”って……。
薫くんの口から出るとは思っていなかった言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。
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