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複雑な気分のまま部屋の前に到着した。一瞬どうしたらドアが開くのか忘れたが、カードキーが必要だと思い出した。
「待って、今開けるね」
私はポシェットを肩からおろし、チャックを開けて手を入れる。
「へぇ、カードキー持たせてくれたんだ、晴。てっきり沙弓ちゃんには持たせてあげないのかと思ってたよ」
薫くんまで何を言うんだろう。カードキーがないと部屋に入れないんだから、当然、必要だよね?
私にカードキーを持たせないことって、もしかして普通のことなの?
「うん。最初は反対されたよ。でも、絶対に誰にも渡さないって約束して、持たせてもらってるの」
「へえ」
なかなか見つからず、私がゴソゴソとポシェットを漁っている間、薫くんはそばに立ったまま待っていてくれた。
やがて私が“大事な物入れ”として使っている小さなポーチを取り出すと、それを興味津々の様子で覗いてくる。
「可愛いね。それ、沙弓ちゃんが作ったの?」
「あ、うん。そうなの。前に作ったものなんだけど、カードキー入れるのにちょうど良いと思って」
このポーチは、ペーパードライバーだけど苦労して取った免許証を入れるために私が作ったものだ。
クリーム色の布地に、パールとリボンをあしらった自信作で、手作りだと気づいてもらえたことに私は嬉しくなった。
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