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「すごいね。ちょっと見せて」
「うん」
私は素直に照れながら、ポーチのチャックが閉まったままでそれを薫くんの手の中に渡す。
彼はポーチを顔の前に持ってきて回しながら一頻り見た後、勢い良くチャックを開けた。
チャックを開けて、中から素早くカードキーだけを取り出すと、それを一瞬でドアの窪みへと通す。
ドアからピッと短い機械音がしてセンサーが赤く光った後、内部でガッチャンと噛み合った鍵が開く音がした。
突然のことに、私はその様子をただボーッと見ていた。薫くんがカードキーを使ってうちのドアの鍵を開けただけのことだが、理解するのには時間がかかった。
「簡単に開いちゃったね。……ふふ、ダメだよ、沙弓ちゃん。誰にも渡すなって晴に言われたんでしょ?」
クスクスと笑いながら、薫くんはドアを開ける。
「で、でも……薫くんは別だと思うよ?」
「別じゃないよ、晴にとっては。何にしても、沙弓ちゃんは少し無防備かもしれないね。……でも大丈夫。無防備っていうのは自覚すれば治せるものだから。僕が教えてあげるよ」
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