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薫くん相手に無防備じゃダメだって言われても、ピンとこないのに。
甘く叱られた気がして、肩をすぼめながら大人しく薫くんに続いて家に入った。
買ったものをキッチンに並べ、すぐに料理に取りかかる。早く作って寝かせておくとより一層美味しくなるのだと、薫くんは言った。
初めてのキッチンから宝探しのように包丁とまな板を探しだし、セッティングする。
「怪我しないでね、沙弓ちゃん」
洗ったじゃがいも、人参、玉ねぎを前に包丁を向けると、薫くんは心配そうに私の周りをウロウロとし始めた。
「うん、大丈夫! えっと……」
じゃがいもの皮を剥きたいのだが、どうすればいいかわからず裏手で包丁を握り刃先を突き付けると、それをじゃがいもに刺す前に、後ろから薫くんの手が伸びてきた。
「ふふ、ストップ」
温かくて大きな手が包丁の柄ごと私の手を包み込んだ。それと同時に、彼の笑いを堪えている声が耳元で響く。
「か、薫くん……」
「沙弓ちゃん、可愛いなぁ。ダメでしょ? じゃがいも殺しちゃったら。皮を剥くんだよ」
こ、殺すつもりは……。情けなくぶつぶつ言い訳をすると、薫くんの堪えていた笑い声は、高笑いへと変わった。
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