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リンゴの皮が剥けるようにあまりにも簡単に皮がすべり落ちていくため、私は感動して食い入るように見ていた。
それにしても、薫くんの指って綺麗……。白くてしなやかで、なのに男らしく骨が浮き出ていて。
ドクン、ドクン、と心臓がうるさく鳴り続けている。
「心臓、すごいね」
また耳元で囁かれる。
バレた……!
顔に火がついたかのように熱くなった。
包丁は止まらない。薫くんが耳元で囁くせいで、彼の唇がまだそこにあるように感じている。
はあ、はあ、となぜか自分の息が上がり始め、それが頭の中に響いてくる。
……でもこれって、私のだけじゃない。
耳元で、薫くんの息も上がっているような気がするんだけど……?
「……沙弓ちゃん……」
今までとは違う悩ましげな彼の声がして、その声の甘さにくらりと目眩がした。
力が抜けて、完全に背中を薫くんへと預けてしまう。私の体重がいくら寄りかかろうと、彼の体はびくともしなかった。
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