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「どうして? それがないと外へ出られないんでしょう? 私にもひとつ必要だよ」
「外に出る用事があるときに、俺に言って。事前に渡すことにするから。無くしたら困るものだからな」
それで話を終わりにしようとした晴くんに、私は納得がいかずにすがり付き、カードキーを渡すように両手で受け皿を作って詰め寄った。
「晴くん! 私、頼りないかもしれないけど、大事なものを無くしたりしたことないよ。今までだってそうだったでしょう?」
晴くんは私の手を横へと流す。
「ああ。でも、万が一があると困るから」
「でも、それじゃあ自由に外に出れないよ。突然外に出たくなったときはどうしたらいいの?」
私の質問に、彼は眉を寄せた。
「それって、どんなとき?」
「どんなときって……それは今は思いつかない、けど……」
ダメだ、全然、話を聞いてくれない……。悲しくて目尻に涙を滲ませると、晴くんは困った顔でため息をついた。
「……分かった、泣くなよ。沙弓にも一枚渡すから。でも誰にも渡すな。誰にも、だ。どこにしまってあるかも言っちゃダメ。こういうマンションは常に狙われてる」
「うん……」
受け取って、ハンドバッグの大事な物入れにすぐにしまった。私だって最初から、ちゃんと厳重に保管するつもりだった。カードキーは渡されても、涙は消えない。
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