ペンギンのいた日々

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 うだるような熱帯夜の暑さに私は額の汗を拭った。うっかり触った生え際はすっかり後退している。  この頭を見て部下の一部は『いっそスキンヘッドにすればいいのに』と言っているらしい。けしからんことだ。収穫が減ったことを理由に畑に除草剤を撒く農家がいるだろうか?  公私ともに部下には苦労させらる。あの大口の契約だって・・・と仕事に意識が向いたところで私は頭を振ってその思考を追い出した。  せっかくの金曜日だ。仕事のことは一旦忘れようと決めたじゃないか。全く、ボーッとしてるとロクなことを考えない。  こんな日はビールでも飲んで頭を空っぽにしよう。そう思い、私は自宅のドアを開けた。  私の家ーあるいは部屋と言うべきかーはマンションの8階にある。至って普通の、もっと言えば簡素な1LDKだ。そして私は独身貴族、当然出迎える者などいない。  だったらキッチンから聞こえるこの物音はなんだ!?  せめてもの武器として折り畳み傘を構えながら私は電気のスイッチを押した。  ソイツは図々しくも私の冷蔵庫に首を突っ込んでいた。黒い羽毛の生えた尻がこちらを小馬鹿にするかのように揺れる。  唖然とする私の気配に気づいたのか、ソイツはゆっくりと振り向いた。  それは1匹のペンギンだった。
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