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幸い冷蔵庫の中は荒らされていない。とりわけビールが五体満足であったことを確認して私は安堵のため息をついた。
そんな私を尻目にペンギンはテレビを見ていた。それも私のお気に入りのクッションソファに腰かけて。
さらに腹が立つことにそのバラエティ番組は私が毎週欠かさず見ているものだ。ペンギンと趣味を同じくするというのは霊長類として中々屈辱的ではないか?
「おいペンギン。それは私のソファだ、降りろ」
言ってからなんて馬鹿な事をしているのかと自分を叱る。ペンギンに言葉が通じるわけがない。
「ギュエェッ!」
ペンギンはいっちょ前に反抗してみせた。どうやら言葉が通じないというのは私の思い込みだったらしい。不法侵入者にしてはあまりにもふてぶてしい態度に却って諦めがついた。
「汚すなよ」
私はペンギンの隣に椅子を持って行き、ビールを注ぎ始めた。
「ギュエッ!」
いつの間にかうたた寝していたらしい。ペンギンの濁った声で私は目を覚ました。時計を見ると既に0時になっていた。私は伸びをして立ち上がった。
「む、寝るか」
そう呟くとペンギンはひょこっとソファを降りて私を見つめた。意外と大きいな。そう言えばこいつはどこで寝るんだろうか?
どうやらこともあろうに私の寝室で寝るつもりらしい。ぴょこぴょこと私の後を追うと枕元に陣取った。
「汚すなよ」
「ギュエッ」
ペンギンは頷いた、ように見えた。存外礼儀正しい奴だ。私は一旦寝室を後にする。
歯磨きを終えて戻ってくるとペンギンはまだ直立していた。
「おい、ペンギン・・・」
声をかけようとして止めた。ギュー、ギューと小さな寝息が聞こえたからだ。
「寝床を貸すのは一晩だけだぞ」
ペンギンを起こさないように私は呟いた。
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