ペンギンのいた日々

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「ギュエェッ!ギュエェッ!」  濁った声が耳元で鳴り響く。そうだ、私はなぜか昨夜からペンギンと同棲しているんだった。  寝ぼけ眼であたりを見回すとペンギンの姿は見えなかった。どこに行ったんだ?  だが、寝室を出てすぐにその謎は解決する。ペンギンはダイニングテーブルに腰かけていた。 「ギュエッ」  まさか朝食を催促しているのだろうか?タイミング悪く私の腹が鳴った。 「ギュギュッ」  鳥類の表情は人間には理解できないはずだ。だが、私にはペンギンがしたり顔をしているとしか思えなかった。  やむを得ず、ペンギンの催促に応える形で朝食のトーストを用意する。  ペンギンはパンにジャムを塗るのだろうか?そんな疑問を抱えながらコーヒーを啜る。ペンギンはテーブル上の瓶をしばらく吟味するとその中の一つ、よりにもよって私の今日の気分とピッタリ一致する餡子の瓶に手を伸ばした。  ペンギンは翼ーでいいのだろうか?むしろヒレと言った方がしっくりくるーを使って器用に餡をトーストに塗って食べ始めた。私は不本意ながらブルーベリージャムをトーストに塗った。  朝食の後、私は最寄りの動物園に電話をかけた。この辺りでペンギンがいるとしたらそこしか思いつかない。なにせペンギンは一般家庭で気軽に飼育できるペットではないし、ましてや道路脇から突然飛び出してくる類の動物ではないのだから。  結果、私の困惑は更に深まるだけだった。  クッションソファに座り、我が物顔でくつろぐこのペンギンはいささか『大きすぎる』とのことだった。日本の動物園ではフンバルトペンギンーフンボルトペンギンだったか?ーとかいう小型のペンギンが一般的らしい。  私の腰ほどの背丈のペンギンが家にいると告げたところ、電話の向こうの女性は私が冗談を言っていると思ったらしい。それでもなお食い下がったところ、警察に連絡されそうになったので慌てて電話を切った。  だが、ペンギンの種類がわかったのは収穫だった。どうやらこいつはコウテイペンギンというらしい。なるほど皇帝ならばこの不遜な態度にも納得である。  しかし、日本でコウテイペンギンを飼育している施設はごくわずからしい。当然この近所ではない。  となるとこいつは一体どこから来たのだろうか?
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