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日本の法律的にペンギンを車に乗せていることが許可されているかどうか定かではなかったが、犬猫でよいことがペンギンで駄目な道理もあるまいと思い、乗せていくことにした。
道すがらペンギンは窓の外の景色から目を離さなかった。こいつなりに室内の生活に飽き飽きしていたのだろうか。帰ったら今後の飼育方法を見直そうと思う。
「ギュー!」
海に着くなり、ペンギンは車の外に飛び出した。
砂浜を転がるペンギンを見ながら私はタバコを咥えた。ここも随分様変わりしたものだ。
「ギュエッ!」
ペンギンは私の方を振り向いて鳴いた。煙を吐いて頷くと、ペンギンはピョコピョコと海へ駆けて行った。
私は期待に胸を膨らませた。ペンギンはどんな姿で泳ぐのか、というのは私の密かな疑問だった。
「ギュギュエッ!」
ペンギンが羽ばたいているーそんな錯覚に陥った。小憎らしいほど優美な泳ぎだ。なるほどお前の先祖が空ではなく海を選んだだけのことはある。
風が潮の香りを運んできた。懐かしい・・。幼き日の記憶が喚び起こされる。あの時も私はペンギンと共にこの海を訪れていたのだ。どうして忘れていたのだろう?
「ギュ!」
濁った声が私を現実に引き戻した。いつの間にかペンギンは大分小さくなってしまっていた。しかもあの藻掻くような動き・・・まさか、溺れているのか!?
「ペンギン!」
なんて間抜けな奴だろうか、ペンギンの癖に溺れるとは!私は迷わず海に飛び込んだ。
泳ぎには自信があった。しかし、海水を吸った洋服はどんどん重くなり、私の自由を奪う。
ドブンッ。それは私の体が海に呑み込まれる音だった。
「ギュエエエエエ!ギュエエエエエ!」
薄れゆく意識の中、ペンギンの濁った声が頭の中で反響し続けていた。
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