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目覚めた私の視界にあったのは真っ白な天井と見覚えのない、しかしどこか懐かしい感じのする初老の女性の顔だった。
「ああ、ジロウ!」
「あの・・失礼ですが、どなたでしょうか?」
女性は怒りながら破顔した。
「バカタレ!姉さんの顔を忘れたのかい」
「姉・・さん・・?」
それは30年ぶりに会う私の姉だった。
溺れた私を収容した病院は、免許証などの情報から私が姉の親族ではないかと睨んで呼び出したらしい。なぜそうも上手くいったかというと・・・
「母さんが?」
「そうさ・・あんたももうちょっと早く帰ってくればよかったのにねえ」
ちょうど2週間前に亡くなった私の母が入院していたのがこの病院だったというのだ。
しかし、もうちょっと早く帰ってこいとは心外だ。なにせ私は30年前に勘当されていたのだから。
だが、どうやら私を勘当した父は10年前に亡くなっていたらしい。それ以来、母は私に一目会いたいと探し続けていたそうだ。
「母さん・・・」
墓前にカーネーションの花束を供え、私は静かに泣いた。
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