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「殺風景な部屋だな」
ある日、僕は部屋を眺めてぽつりと言った。
僕はあまり部屋を掃除をしない。
仕事が忙しいというのもあるし、めんどうくさいことはしたくないということもある。
部屋のなかは、カップラーメンの空き容器や、惣菜が入っていたプラスチックのトレイ、ポテトチップスの空袋などが散乱していた。
食べたまま放置していたので、異臭がするし、コバエが発生して不潔だ。
何とかしなくちゃな、僕はそう思いスーパーに買い物に行った。
スーパー帰りの僕の手に持っているレジ袋の中にはレトルト食品やらカップラーメンやら、チョコレートその他の菓子やらが入っていて、料理の食材のようなものは何も入っていない。
僕は料理をあまりしない、というかまったくしないといってもいい。たまに気分が乗った時にカップラーメンのためにネギを切るくらいのことだ。
誰か僕と結婚してくれないかな、料理とか掃除とかしてくれる、そんな世話をしてくれる女性と僕は結婚したい。
目の前を通る通勤帰りのOLやキャッキャッと騒ぐ女子高生たちをながめながら僕は思った。
帰り道に花屋があった。
普段ならこんな所に立ち寄ったりはしないが、今日はなぜか僕は店の中に入った。
前の日にテレビで見た番組でガーデニングについてやっていたせいかもしれない。それとも会社の女子社員が彼氏から花をもらってうれしいとか話しているのを聞いたせいかもしれない。
とにかく僕は花屋の中に入った。
店に入って気づいたが、そこは僕にとっては場違いな場所であった。
店の中は綺麗に掃除してあり、色とりどりの鮮やかな花が――僕には何の花か分からなかったが、綺麗に並べられていた。
僕は店の隅にあった花の種のコーナーに来ていた。
そこには色々な名前だけは聞いたことがある――実際には見たことがない、花の種が置いてあり、それをとりあえず手に取ってみた。
裏の説明を見てもあまりピンとこない、でもたまには自分の部屋に花でも植えてみようか、そんな気分になっていた。
僕は時々、おかしな衝動に突き動かされ、自分には興味がない雑誌を買ったり、絵画を買ったり、美容院でパーマをかけてもらったり、そんな自分でもわけの分からない行動をすることがある。
今回のこれもそれと同じようなものだった。
僕は手に持った黄色い何とかという花の種を買おうかとほぼ心に決めていた時に、花の種の下の方、そこに野菜や果物の種が置いてあるのを見つけた。
どうせ植えるなら食べられるものの方がいい。
僕は突然心を変え、あっさりと手に持った黄色い何とかという花の種を元の所に戻して、野菜や果物の中から適当に種を選ぶことにした。
きゅうりやネギなどを眺めていたが、ありきたりな物は買ってもしょうがない、それはそうだ、スーパーで売っているんだからわざわざ自分で育てなくても、店で買えばいいだけの話だ。
僕はめずらしいのがないか探した。
1個だけ聞いたことがないやつがあった。
種の袋にはきゅうり? いや違う瓜のようなやつで模様が普通のやつとは違っていて、名前も違う、外国のめずらしい野菜の種があったのでそれを買うことにした。
買う決め手になったのは袋に書いてあった『3日で食べられるようになります』という言葉だった。
僕は飽きやすいので、すぐに食べられるやつがいい。どうせすぐに飽きて水をやらなくなるのだから。
レジに持っていって、それを買い。僕は家に帰った。
僕は帰り道不愉快だった、というのは店員が野菜の種を買う時、笑っていたような気がしたからだ。
たぶん、花屋というのは小綺麗な女性が行く所で、僕のような穴の空いたジーパンを履いているような男が野菜の種を買うのには似つかわしくない、滑稽だということで笑っていたんだろう。
態度が悪い店員だな。たまにああいうのがいる、気にしても仕方がない。
僕は部屋に帰り、レジ袋に入ったレトルト食品やカップラーメンやチョコレートをその辺に放り出し、種の袋を取り出した。
ああ、しまった。
こういう種を育てるには植木鉢やら土やらジョウロやら、色々な道具がいるんだった。
さっき店員が笑っていたのは、それを買い忘れたから笑っていたんだな。
それならそうと、さっき店で言ってくれればいいのに。
今更店に戻って買いに行くのはみっともないし、めんどうくさくもある。
僕はその辺に転がっていたカップラーメンの容器を流しに持っていって、水で洗った後、アパートの周りの土をスコップで適当に中に入れ、部屋に戻って、その中に種を適当に放り込んで上から土をかけた後、水道の水を適当に上からかけておいた。
自然のものだから、適当にやっても育つだろう。
僕は種の入った容器をテーブルの上に置いて、カップラーメンを食べてテレビを見てから眠った。
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