4.心のまにまに

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4.心のまにまに

  夫を裏切っている後ろめたさと、彼を傷つけている心苦しさ。 心の中には、その感情が常にある。 それでも、素直にピュアにしてくれる彼の言葉の魔法から、もう逃れられない。 たっぷり、たっぷり欲しいの。 ゆっくりケーキをいただく。 私は、甘ーいのが好きなの。 ほら、足りなければ、トッピングだって、シロップだって、好みでかけるでしょ。 だから、私には彼の甘い甘い言葉が必要なの。 たっぷり、たっぷりかけたいの。  食べてみるまで、わからなかった。 こんな味だったなんて。  甘くて、苦くて……。 一口毎に、彼の言葉がよみがえる。 私を認めてくれる言葉。 何を言ってもいいよ、受け止めてあげると言ってくれた言葉。 自分を卑下しないでと言ってくれた言葉。 そして、誰のための人生ではない、私の人生を生きてと言ってくれた言葉。 そんな言葉が、うずくまる私の手を引っ張って立ち上がらせてくれた。 日々のことに、傷ついていることさえわからなくなるぐらい麻痺していた。 私のまま、私でいていいのね。 彼の言葉に涙した。 涙はカラカラに乾いた心を潤した。 足りない分をよそからいただく。 一見、理にかなっていそうだけど、結婚だけはそうはいかない。 でも、私は手放したくない。今はまだ。 どちらを手放したくないの? 最後の一口を食べる。 奥歯で胡桃を噛みしめる。 香ばしさが広がる。 胡桃もちゃんと主張していた。 こんなケーキ、許されない? 食べてみた人にしかわからない、極上のスイーツ。 想像ではわからないと思うわ。 私は、今夜も夢を見る……。
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