防御術式

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防御術式

 正面から警棒を交える、強い金属音が響きお互い睨み合う。今ここで銃を撃ちこめばベルに傷を負わせることは出来るが。 「撃たないんですか」 「うう……」  水色と桃色に魔法を使っておいて銃は使えないのは魔法が余りにもフィクションめいて使用に抵抗がなかったからだった。セーフティロックを外し目の前のベルを撃とうとするがトリガーに触れる指が震える。警棒が離れ間合いを取られる。 「甘いですね!」  詰め寄るベル、突きの一撃が腹部に命中する直前に降りる、低姿勢をイメージしそのまま直進、そのまま行動に移れば発情状態になるがこの感覚は違う、今までの魔力が極上のロイヤルゼリーだとすればこれはイチゴミルク。地面すれすれの低姿勢、体が倒れる寸前まで姿勢を落とし脚を地面から浮かせる、浮いた、そのまま警棒を切りつける。命中! ベルの腹にカウンターをお見舞いする。 「ふぐっ!」 「かわいい仔を傷物にしたくなくてね」  背後を取りもう一撃背を狙う。衝撃を落とすようにイメージ……イチゴミルクを落とす! ガインッ!!  弾かれた、魔法は文字通り弾け警棒も鉄板に打ち付けたような、少なくとも腹部を攻撃したときの様な感触では無かった。  振り返りざまにベルは僕を警棒で切り付け撥ね除ける。 「今のは……」 「防御術式、知らないんですか? 知らないなら知らないまま倒れてください!」  猪突猛進というのだろうか、ベルはもう一度腹部への突きを狙っているように見えた、見え透いた攻撃はゆっくりと横に移動し回避行動を取る。突かれる瞬間横へ移動する、吸い付くようにベルの警棒は僕の腹部を突き刺す、警棒で軌道を反らし脇腹へ命中させる、痛い。防御術式が何だ、構えた警棒にイチゴミルクをイメージして……ベルの腕を叩き切る! ガガガガガ!!  鉄板を何度も叩きつけたような音が返ってくる、しかし。 ガシュ!! 「いだいいいいいいい!!」  叩きつけたベルの腕はだらんとぶら下がり片方の腕で押さえつけている。ケモショタを痛めつけるのは心苦しいけど……今は逃げなければいけないんだ。 ミユの元へ駆け寄る。 「ミユ、大丈夫だった……?」 「はぁ……はぁ……うんぅ…………」  何となく想像していたがミユは疲弊していた、イチゴミルク味の魔力をずっと僕に送り付けてくれていたはず、ミユの無事を確認し手を掴み前へ歩きはじめる。 「甘い匂いする……」 「イチゴミルクの匂い?」  ミユは口元を抑えて笑っている、緊張感が抜け落ちたまま涙目でこちらを見つめるベルの横を通り過ぎる。 「僕にトドメを刺さなかったこと……後悔するぞ……!」  ベルは懐の通信機を手に取り何処かに発信する、それに反応するように振り向くが既に遅かった。 「子供だからって舐めないでね!」 「はいはい、お勤めご苦労様、ベル」  あの部屋に居た人間がまた、目の前に居る。振り返り出口目掛けて走り抜ける。人間は高く飛び出口をふさぐ 「逃げたって無駄だからね。それよりもちょっと遊ぼうよ、ほら、武器だ」  人間は見覚えのある刀をベルに投げる、それを動く腕で掴むベル。身長よりも長い刀を器用に携え紫色の稲妻を発する。 「その刀『紫電』は前隊長から譲り受けたものだ、直接指導を受けていたベルくんなら片腕でも使えると思って。それで仇を討ってみてよ」 「仇って……?」  ベルの汗が垂れる、緩み切った緊張感が人間に引っ張られまた張り詰める。 「目の前に居るよ、ロピカシアさ」 「ロピカ、が、隊長を……?」  紫色の稲妻は激しく火花を散らし刃をこちらを向ける。警棒でさえギリギリだったんだ、片腕が使えないとはいえまともな武器を使われたら…… 「第二ラウンドだよベルくん」  人間が指を鳴らすとベルは突進する、刀を片手で構え倍のスピードで迫る、警棒も使って防御姿勢を取り避ける、当たるすれすれで回避する、警棒が刀と触れ火花が飛び散る。ミユと一緒に茂みに転がりすぐさま立ち上がり警棒を構える。 「もう一度……!」  ベルは二度目の突進、突きを至近距離で繰り出す。防御術式が何か分からないけどベルが使っていたものをイメージして警棒の横に展開する。 ズガガガガ!!!!  突きが防御術式に阻まれて軌道がそれる、しかしイチゴミルク色の防御術式はその一撃だけで破壊され稲妻が僕とミユを襲う。 「うぐう”う”う”うううう」 「ぴゃっ…………」  ミユは倒れた、僕自身ミユを抱えて逃げるほどの余力もなく魔力供給が無い。必死にミユを揺さり起こそうと試みる。 「ミユ、起きてよ、起きてよ!!」  しかし起きる気配がない、焦りが募り心拍数が上昇していく。 「あれ、うさぎさんは寝てしまったのかな。これは好都合」  近寄る人間、ベルの三撃目、警棒を盾に受け止める準備をする、ベルに勝つことは不可能かもしれない。でも…… 「ひぐう”う”う”う”ううううう」  突きを警棒で受けたその時、警棒が折れた、咄嗟に折れた警棒で突きの軌道を反らそうと試みるが稲妻が僕を傷つける。 「ベルくんそこまで、これ以上痛めつけたら傷物になってしまう」 「はぁ……はぁ……こいつ、どうするんですか」 「大事な大事なロピカシア様だからね……演算システムとして永遠に働いてもらってもいいね」  脇腹の痛みに悶えながら茂みの中まで転がり人間とベルから離れる。生きなきゃ、必死に逃げ惑う、鋭い痛みが体中を駆け巡り呼吸がどんどん荒くなる。不意に手を掛けた地面は無く上半身が宙に舞う。 「おっと、ロピカシアは何処かな~」 「あっちですよ!」 「あっちって崖じゃないか!」  もう一度体が宙を舞った、今度は僕1匹だけで奈落の底へ落ちていく。瞼が重くなり目を瞑ろうとした。白く輝きぽわぽわと粒子の様な物が頬に触れる、ピンク色のもふもふ、甘い匂い、あのピンク色の猫の姿を思い出させた。
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