アナスタシスという名のケモショタ

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アナスタシスという名のケモショタ

 落ちた先で僕は転がり床に寝そべる、稲妻の痺れが体に残り上手く動かせない。白いぽわぽわとした粒子が周囲に舞う、辺りを見渡すと本棚と大きなベッドに椅子、そこに座るピンク色のもふもふが居た。手をもふもふにかざす、じっとこっちを見つめるもふもふ。 「あなたがロピカシア?」 「ロピカ、です……いだぃ……」  またロピカにシアと付けて呼ばれた、一度もロピカシアなんて名乗ったこと無いのに。 「よかった、間違えてなくて……なんていうかその……すごい匂いだね……」 「うう……!」 「今回だけは見逃して、あげるから……回復とか要る?」  床に寝そべったままこくりと縦に首を振る、流血と痺れで体は既にボロボロ。もふもふは座ったままこちらに粒子を放出する、体がムズ痒い、この感触は異世界転移したときにケモショタになったとき以来だ、尻尾の先までムズ痒いのが駆け巡りその感触がそわそわと気持ちいいものに変わると体中の痛みが消えていた。 「ありがとうございます……」 「どうも、でもこれからあなたどうするの?」  僕は立ち上がりやるせない気持ちが襲ってくる、無敵だと思っていた力は敵わず助けたと思ったミユは守れず、挙句の果てに退場まがいのこの空間、涙が出る前に緊迫感が僕の背中を押す、汗が垂れ指先が震える。 「ぼ、僕はこれから、どうすればいいんですか……」 「どうすればいいって?」 「折角貰った力も敵わず助けた女の子も守れなかった、挙句の果てに君にまた助けられて」 「また……?」 「僕は……」 「残念だけどロピカシアに干渉するのはこれが初めて。そう、初めまして、私の名前はアカシグレ」  目の前のピンク色のもふもふが座ったまま軽くお辞儀をする、よく見るとピンク色というよりは赤色に近い、そして常に赤色の粒子が体の周りをふわふわと漂っている。とてもピンク色のもふもふに似ているけど違う……気がする。 「初めまして……?」 「うんっ、物覚えの悪いロピカシアだね」  むっとした僕は前傾姿勢で質問を投げかける。 「その、僕以外のロピカが居る様な口ぶりは何なの!? まさか沢山のロピカが居るとか言わないでね」  ほんの少しアカシグレが俯く。 「沢山のロピカ……ね、あなたに言うべきではないかもしれないけど」 「居るの!? 沢山のロピカ」 「居ない、居ないよ!」 「良かった……」 「過去にあなたそっくりの最強の獣人が居たの、『ロピカシア・アナスタシス』アナスタシア女王の右腕として働き過去最高の強さを誇った……伝説」 「なに、それ」 「ここはアナスタシア教団本部よ、あなたを知らないケモノは居ない」 「そんなにさ、期待されるとメンタル持たないよ、えっと……アナスタシスさんそっくりだから狙われてるの僕?」  アカシグレは沈黙する、深刻そうな表情が僕の胸を更にざわつかせる。 「ロピカシアにそっくりさんはあり得ないの、だからあなたを狙ってる」 「僕が本物ってこと? そんなことないよだって…………い、異世界転移して……こっちの世界にやってきた別世界のハンドルネームロピカシアなんだから……ね?」 「面白い冗談言うね、そういうの好きだよ。さて、どうしようかな~」  椅子から立ち上がりソファーに座るアカシグレ。呆気に取られたまま立ち尽くす、信じてもらえないのは仕方ないけど、僕が僕である証明が出来ない、僕って、ロピカって何だ。そうだスマホ、ピンク色のスマホ! これさえ見せれば異世界転移した証になる。心臓が湧きたつ、口角が上がる。 「どうしたの、嬉しそうにして」 「こ、これを見てほしかったんだ、ほら これなーんだ!」  ポーチからピンク色のスマホを取り出す、画面を表示させステータス画面からマスコットが移る画面を見せる。アカシグレもびっくりしている、口元に手を当てて悩んでる。きっとこれが異世界転移の証明なんだ。  小声でアカシグレが呟く。 「アナスタシア端末」  そんな易々と証明出来たら良かったんだ。 「あなたの世界のスマホと言いたいのだけど残念ながらこれはこっちの世界のスマホ。アナスタシア端末と呼ばれている」 「そ、そう、もらったんだよ…………ピンク色のもふもふに…………」 「ピンク色のもふもふとやらは何か名乗っていなかったの?」 「名乗ってって…………」 『ほんと、かわいい。何にも知らない純粋無垢な男の子。お姉さんはね、アナスタシアっていうの』  跪く、額の汗が止まらない。アナスタシア…………… 「ピンク色のもふもふが、アナスタシア…………あなたの目の前にアナスタシアが現れたのね?」 「そう、だよ? 僕が悪いケモナーに強姦されそうになっているところを助けてくれたの」 「なるほど、詳しく聞かせて?」  僕は簡単にこれまでの事を説明した、ミユの事も。 「教えてくれてありがとう、スマホ貸して」  無言でスマホを差し出す。 「えっと、あった。メモ帳に書き込んでおくから後で読んでね。」  器用な手つきでピンク色のスマホを操作して1分くらいで僕の胸元にスマホを投げ返す。 「私は……アナスタシスが行った過去の出来事を一部知っている、だけど今あなたに伝えても絵空事の様に感じて実感がわかないでしょう。もし本物のアナスタシスだったら何かの拍子で思い出すだろうし」 「絵空事って、例えば」 「空を飛んでミサイルを全て撃ち落とした……絵空事に聞こえるよね」 「う、うん……よくわからない……」 「だから教えない、いつか思い出してね」 「そんなこと言われても」 「あなたが異世界人でも記憶喪失でも構わない、その魔法が証明としてこの世界に縛り付けられているの。象徴的存在アナスタシスを皆が欲している。でも…………それもいいかもね」 「いいって、何で……?」 「アナスタシア教団に捕まればケモショタハーレムだよ」  ぽふっとふわふわしたものが膝に乗っかる、アカシグレが僕の膝に腕と頭を乗せている。 「もうこんなに汚されちゃって、すんすん……それに、あなたの匂いも甘いよ。捕まって愛されたら、何も考えずに幸せになれるよ」「何も考える必要ないの…………?」 「教団のお手伝いをするだけ、アナスタシスだもん、大切にしてくれるよー」  赤色のもふもふが僕のおなかに顔をうずくめる、汚れちゃうよ……いいの? 「ぽかぽかしてきたね、水色桃色ともう一度エッチな遊び、しようね」  ふと頭に過るピンク色のうさぎ、ミユ。 「でもミユが」 「あなたにとってミユはそんなに大切? 会って一日も立っていない出会ったばっかりの獣人さん、あの仔もきっと、あなたのことを忘れてる」 「忘れてなんか……忘れてなんかぁ……」  赤色のもふもふが僕を床へ転がす、マズルの先にアカシグレ、尻尾がゆらり、心地よくて眠ってしまいそう。 「無理して助ける必要は無いの、あなたはロピカシア・アナスタシス、ここでゆっくり眠るの」  眠る……眠る……赤いもふもふが僕を包み癒してくれる、悩みが解きほぐされてゆく。
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