♥桜と結晶

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♥桜と結晶

 エレベーターは最上階で止まり扉が開かれる、ミユはほんの少しの緊張とその先にある物への期待に胸をざわつかせる。  本棚に囲まれ椅子とソファーにベッドがある赤い粒子がふわふわと宙に舞うその部屋は魔力が満ち溢れていた。視線の先に抱き付き合う二匹、ロピカともう一匹。 「ロピカ、よかったぁ……」  ロピカは赤色の猫獣人の横で寄り添うように寝ていた、何となくむっとするがそれは些細な事、ロピカに近づき赤色の猫獣人に視線を移す。  「ロピカと寝ているこの仔は……だれ?」  もぞもぞと起き上がり目を擦りながら私を見る赤い仔、ローブを纏っているけど中は裸の様に見えた。白衣で体を隠そうとしたけど中にスク水着ているのを忘れてた、私は大丈夫…… 「むにゅ……ぁ、お客さんだぁ……いらっしゃぁ~い…………」  寝起きの高い声、伸びをして瞼をぱちぱち瞬き、赤い仔も私をじっと見つめる、ゆっくりと距離が近づいていく。 「喋って、ほしいなぁ」 「ぴゃっ! え、えと……」  耳元で囁く。 「名前を教えてくれないと何て呼べばいいか分からないよ?」 「名前、ミユ……だよ」 「みゆっていうんだぁ……ロピカシアが言ってた仔だね」  耳がぴょこりと動きだす。 「ロピカが私の事言ってたの?」 「そう、心配してくれていたよ」 「ロピカが私を?」  赤い仔は口元を手で隠す。 「ふふう……相思相愛だね~」 「そうしそうあい……ぴゃ!」 「うさぎさんはぴゃうぴゃう、ぴょんぴょん? 本当の鳴き声はぶーぶー……可愛らしいうさぎさんですね」 「ぴゅ、ぴゃう……?」  赤い仔は立ち上がり本棚へ向かい本を探し始めた。 「私の名前はアカシック……アカシグレ、教団の女神を務めるただのねこさんだよ」 「ねこさん……」 「あーあ、せっかくお友達が増えると思ったのに。ミユが連れて行っちゃうんだね」 「おともだち……アカシグレのお友達になるっ」 「その言葉、嬉しい……初対面の赤の他人なのにそんな簡単に友達になってもいいの?」 「いいの……ロピカだって一緒になってくれた」 「一緒にね……ほんの一瞬じゃない?」  本棚から本を取り出しては中身を確認し机の上に置いていくアカシグレ。その背中にそっとと近づいていく。 「一瞬でもいいの、だってアカシグレみたいな仔、私見たことない」  頬を撫でる、紅い粒子が舞い華やかにねこさんを可愛く演出する、ふわりと頬毛が揺れ上がる。 「それは、何を見て言っているの?」 「ここ」  胸を指さす、ふわふわの胸毛に指が沈んでいく、ぺったんこなお胸をなぞるように触れるとトクントクンと鼓動を感じる。 「じゃあ私はここ」  アカシグレに角を触られる、つーっとなぞられると蕩ける様な感触が脳を通過する、バイオリンの弦を引くように、振動と魔力の波長が快感に変わる。 「何か……見えた?」 「見えた、見えたよミユ」 「見えちゃった」 「ミユの中身、覗きこんじゃった」 「なんか恥ずかしい」 「恥ずかしいね、そんなにロピカシアの事欲しいんだ」 「うん、欲しい」  アカシグレは本棚から離れると机に置いた本を掴む。 「私が出来るからきっとミユにもできるはず。武器、作らない?」 「武器?」  首を傾げながらアカシグレが見せてくれる本の中身を覗き込む。図が書いてありそこに魔法陣の上に置かれた剣が書かれている。 「ロピカシアが苦戦していたのは見たはず。あれは武器が弱いからなんだ」 「武器が……弱い?」 「正確には武器は十分なんだけどね、魔力の相性が悪いの。あれは私の魔力と相性が良くなる調整を施していたの」 「アカシグレも魔法使えるの?」  私は目を輝かせながらアカシグレに期待の眼差しを向ける。 「使えるよ、見ててね」  アカシグレは手の平を天井に向け魔力に意識を向ける、すると手の平に浮かぶようにひし形の赤い水晶が生まれ拳ほどの大きさに 成長した。 「わああああ!!」 「そこはうさぎさんじゃないんだ……」  赤い結晶を握るとそれをミユに渡す。 「私の魔法は魔力の結晶化、これが一番やりやすいの。ミユのこれは……桜の花びら?」 「うんっ、桜だよ!」  そう言って指を鳴らすと光る桜の花びらが現れる、ゆらゆらと地面に落ちて雪の様に溶けていく。 「ピンク色の桜の花、ミユのピンク色と相性いいね、かわいいよ」 「えへへぇ、アカシグレには敵わないよぉ……」 「なでなでしてもいい?」 「いいよ?」 「ありがとうミユ」  そっと撫でられる、耳と耳の間、角と角の間を丁寧にゆっくりと撫でられる、心がぽかぽかしてくる。 「なでなでしながら説明するね」 「ぴゃうっ!」 「私の魔力とミユの魔力は似ている様で全く違うから私が作った武器にミユの魔力を流してもダメなの」 「アカシグレ武器作れるの?」 「作れるよ、えっとね、作ると言ってもちょっと違うんだ」 「んぅ……?」  アカシグレはペンを手に取り握りしめる。 「武器にしたい物に魔力を流す、順序があるから本を読んで覚えてね。魔力を流す、動脈を構築、武器に魔力を認識させる」  握りしめたペンから赤い結晶がビキビキと生えてくる、ペン先とおしりに結晶が張り付いている。 「これは急ぎでやったから魔力が抑えきれずに漏れ出してしまったの、魔力が漏れ出さずに武器の形を維持するのが武器作りだよ」 「難しそう……」 「ゆっくりでいいから覚えようね、ロピカシアに最高の武器を作ってあげるんだよ」 「ロピカの……武器」 「それさえあればロピカシアは決して負けない、最高の戦士になる」 「戦士じゃないよ、私の友達」 「そうだったね、恋人だね」 「恋人じゃないー!」  ぽかぽかと顔が熱くなる、思わずアカシグレに肩をぶつける。 「恋人じゃないかぁ……右腕?」 「みぎうで……」 『お疲れ様ですロピカシア、今日も凄い活躍でしたね』 『まあね、僕は███████の右腕だからこのくらい難なくこなさなくちゃね』  ――二匹は思い出した、何処か遠くのビルのエントランスで会話するアカシグレとロピカの姿を、会話を。 「ふふ、右腕ね」 「左腕も欲しい」 「ミユは欲張りだねー」
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