♥熊さんとお食事

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♥熊さんとお食事

   研究所から半日ほど歩き夕暮れ時が終わろうとしていたくらいに荒廃したビル群が立ち並んでいる町の様な場所までたどり着いた、その更に奥には巨大な塔の様な何かが鎮座している。古びた街並みだが二足歩行するケモノが道を歩いている、毛皮の無い人間の姿は見えない、ケモノだけの世界に転生したのだろうか。だとしたら今の姿は役に立つはず、人間としてこの町を訪れて有名人気取りをしたかったと言えば確かにそうだけど目立ちたいわけじゃない、それに研究所で襲われたようにこっちでもひと悶着あったらたまったもんじゃない。    ぐうううう…………    おなかが鳴る、敵の持っていた一本満足バーみたいなのしか食べてなかったから何か食べたい、お金がない。銃とか売れたらいいけど売る場所がわからない、それに銃は護身用に取っておきたい。とりあえず町を練り歩いてみる、定食屋の様な場所から美味しい匂いが漂ってきて更におなかが鳴る、ぐうううううう…………。  この体になったからだろうか無性に何かが食べたくてたまらない、体は熱を帯びご飯以外の考えが浮かばなくなってきた。目の前には裏路地、その先にはゴミ箱。野良猫の様に何かを漁ろうと手を出したその時誰かの大きな手が肩に触れる。   「君、何をしているのかね」    びくんっ! と体が跳ねる、目が真ん丸になったまま振り返ると大きな熊が服を着ていた。この世界だと当たり前だけどまだ慣れない、アニメに出て来そうなファンシーな恰好の熊におどおどしてしまう。 「なななななんでしょうか!」    冷や汗が止まらない。   「その様子だとゴミ箱を漁って……あれかい? 家無し?」 「家無し……そうですっ お家が無くてご飯も食べるお金が無くて、おなかが空いて……」 「そうか、それならおじさんと一緒に何か食べにいかない?」    ぱああと無意識に笑顔になる、そわそわと尻尾を振り熊さんに近寄ってしまう。   「ありがとうございますっ!」 「おやおやそんな顔されるとおじさんも嬉しくなっちゃうよ」    するりと熊さんの手が僕の尻尾を撫で下ろし尻を撫でる、きゅっと片手で抱きしめられ鼻先ですんすんと臭いを嗅がれる。   「ひゃぅ……」 「かわいいねえ、君名前なんて言うの」 「ロピカシア……」    咄嗟に聞かれ苗字を答えようとした時、ロピカシアという名前しか思い浮かばなかった。他に名前があったはずなのに、思い出せない名前は食欲にかき消され思考から消えていく。   「ロピカシア、ロピちゃんよろしくね、おなかすいたでしょ、すぐに食べに行こうね」    熊さんは僕の手を握り路地裏からお店まで軽く移動する。看板には丼が描いてある。中に入るとカウンター席とテーブル席、カウンターの奥の厨房でケモノの店員が料理を作っていた。熊さんは食券機をポチポチと操作して食券を購入、カウンター席に座ると隣の席をぽんぽんと叩き僕を誘う、少し背の高い椅子にゆっくりの座る。店員が食券を受け取ると料理を始めた。   「あの、ありがとうございます」 「いいよいいよ、おじさんこそ君みたいなかわいい男の子と食事ができてうれしいよ」    少し会話をしているとすぐに料理が出てくる、湯気が立ち上る茶色いスープに麺、ラーメンそのものが目の前に出てきた、口の中が涎でいっぱいになる。カウンターに置いてある箸置きと塩コショウ、異世界でも箸があるんだなぁと安堵し箸を取ろうとすると既に熊さんが箸を取ってくれていた。   「はい、どうぞ」 「ありがとうございます、いただきます……」    手渡しで箸を受け取るとすぐに麺を啜るが熱くてすぐ口から話してしまう、猫舌というやつかも知れない。ふーふーと少し麺を冷ましてから啜る、醤油ラーメンだった。ここに来る前でもなかなか外食しなかったものだからなんだかこれだけでよかったと思えてくる。   「美味しい……」    するすると麺を胃袋の中へ啜り続けるとあっという間に麺が無くなってしまう、もっと食べたい……ふとそう思ってしまった。   「もっと食べるかい?」 「うんっ!」    うんうんっ! と首を縦に振りもっと食べられる喜びに胸がどきどきする。   「すみません、この子に替え玉」 「はいよっ!」    熊さんが店員に替え玉のお願いをしてから少しすると僕の器に替え玉が入れられる。   「食べていいよ」 「はふ……はいっ」    僕はすぐに麺を箸ですくい口の中に頬張りおなかの中を満たしていく、2玉分のラーメンを食べスープも飲み干した僕のおなかは大満足。久しぶりのラーメンと空きっ腹のダブルアタックに僕はもうメロメロだった。   「ごちそうさん」 「ご、ごちそうさまでした……」    僕と熊さんはラーメンを食べ終え店を出る。夜風が寒く少し身が冷える。   「それにしても君」 「はい」    熊さんは僕の首筋の臭いを嗅ぐ。   「すごい臭いだね、やっぱりしてないの?」 「してないって、何を?」 「おちんちん擦ったり、お尻弄ったり」 「な、なにを言ってるんですか!」 「ぐふ、気にしなくていいよ。君の発情した臭いは性の臭いがしない混じりっけなしの綺麗な臭いだったからつい、ね」 「え、え、どういうことですか!?」  困惑した、たしかにケモノとしての姿になったけど発情なんてしているつもりはなかったし体臭だって臭くないと思ってたし、ということは町中をエッチがしたくてたまらない変態さんですって主張しながら歩いていたってことだし……意識すると僕自身の甘い匂いに気が付く、くんくんと更に嗅ぐとその臭いに酔ってしまいそう。 「ほら、着いたよ」 「着いたって……?」 「君、宿無しなんだろう? 今日はおじさんとよろしくね」    ビルの中に入っていく、受付の様な所で熊さんは鍵を受け取ると僕を連れて階段を上っていく、扉を開けるとダブルベッドとテーブルや椅子が置いてある、シャワー室もあるがガラス張りで外から見えてしまいそう。  部屋の扉が閉まると突然熊さんが抱き着いてくる、それも外で抱き着かれたような優しいものではなくきつく激しい、ふんふんと荒々しい鼻息と揉みしだかれる尻、体中を愛撫され心臓の鼓動が早くなり目が真ん丸へと変化する。   「はぁ……はぁ……やっぱ君は上物だぁ、よろしくねロピちゃん」    僕は自覚する、異世界転生前と何も変わっていないことを。いや、確かに変化している、体がケモショタになったというだけでこの状況を受け入れてしまっていた。    
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