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♥水色と桃色
部屋の中がシアン色に統一された洋風な部屋のふわふわのベッドに寝かされていた。濃厚なキスの後味が甘く残り少しだけ口の中を味わう。水色のドレスの仔のお家だろうか、妄想の夢物語がこうも簡単に実現してもいい物だろうか。あの仔は居ない、部屋を探索してみる。
部屋の中にシャワー室があった、このくらいの部屋が普通の世界なのだろうか。他にも替えのドレスにバスタオルなども見つかった、最後に調べたのがこの十字架、アナスタシアと刻まれている。丁度十字架を調べているところで水色のドレスの仔が部屋に入ってきた。
「気に入ってくれたかな……」
「なんだか爽やかな部屋だね、君と同じ色。」
「そうなんだ、僕はあんまりこの部屋は使わないんだけどね……おいで、案内してあげる」
「案内って、何処に?」
「どこだろう……えへへ」
水色のドレスの仔に手を掴まれドアの外に連れ出された。外は長い廊下に高い天井、予想以上の規模に口元がぽかんと開いたままだった。しかし部屋の数は少なく似たような部屋があるだけ、食堂らしき場所に到着したのは10分以上歩いた後だった。その食堂も上階からのテラスから覗くだけ、食堂には入らなかった。
「広いね……」
「広いよ、とっても」
食堂にはケモショタや大人が沢山いた、丁度休憩時間の様でみんなご飯を食べている。全員白い服を着ているみたいでケモショタは毛皮も白く純白と呼ぶにふさわしい風貌、とてもかわいい。
ぐううう……
その様子を見ているとおなかの音が鳴った気がする。
「おなかすいた?」
水色のドレスの仔が話してくる。素直に返事をする。
「うん、おなかすいた……」
「これ、食べる?」
手渡されたのはフランスパンの様な物に具が挟まれたサンドイッチだった、ドレスの何処かに収納スペースがあるのだろう。
「ありがとう……えっと、名前なんて言うのかな……」
「水色、そう呼ばれてる。君は……」
「ロピカだよ。よろしくねっ」
「ロピカ……わかったっ」
「名前、教えてくれてありがとうね……あっ、半分食べる?」
見た目そのままの名前、半分食べるか聞くともう一つのサンドイッチをドレスから取り出し笑った。水色は口を開く。
「もう一つあるんだー」
「よかった、一緒に食べよ?」
「うんっ! でも次の場所も遠いから歩きながら食べよう?」
「そうするよ、食べ歩きだね」
「食べ歩き、行儀悪い?」
「うーん、わからないけど大丈夫だよ、きっと」
「えへへぇ」
二匹笑いながらサンドイッチをもぐもぐと食べていく、普通のレタスに普通のハム普通のチーズで構成された美味しいサンドイッチ、食文化が全く変わらなくて助かる。次の場所は教室、食堂があるんだから恐らく学校なのだろう。そして今はランチタイムなのでだれもいない、綺麗な教室に大きな黒板と教卓。汚れが一切無いような清潔感のある教室が3つほど並んでた。
「水色はここで勉強とかするの?」
「僕はしないよ」
「そうなんだ……水色はここで何をしているの?」
「えっと、それじゃあついてきて」
「うんっ」
軽く頷き早足で歩く水色についていく、到着した先は教会の様な場所だった。光が差し込み神聖な場所だということを主張する、教会だけどそこは何倍も広く僕を圧倒させる、中央に差し込む眩い光に向かって水色は歩いていく。
「水色、番の時間まだだよ」
「桃色、この仔を連れてきたの」
眩い光に遮られ誰がいるのか分からない、桃色と呼ばれた仔が居るらしい。
「ロピカさん、おいで」
僕は不用心に近づいていた、嫌な予感が脳裏に過るがその時には光に近づいてしまっていた。そこには水色と似たドレスを着た桃色の女の子が居た。その二匹の姿を見ると双子の様に思える。
「ロピカ……ロピカさん、初めまして。桃色と申します、水色がご迷惑をおかけしました」
「いやいやそんな、水色が色々教えてくれたんです。桃色さんよろしくお願いします」
「ロピカさん、早速ですがこちらに来てもらえますか?」
「こっちって……?」
「光の先です」
桃色と水色が僕の手を掴み光の中へ進んでいく。白通路の先に見えてくるもの、それは研究所の様な雰囲気を放っていた。
水色と一緒に探索した場所とは雰囲気が違う、各部屋の扉にはガラス窓が無く中の様子が分からないようになっている。桃色と水色に手を引かれるまま廊下の奥の方へと進んでいく。
「ここって、何をしている場所なんですか?」
二匹は顔を合わせて首を傾げる、詳しいことは知らなさそうな様子。奥の部屋まで到着すると桃色が部屋の扉に触れる、軽く扉が開き中に入る、中も廊下と同じく白く清潔、コンピューターの様な物が置いてあるのがわかる。
「水色桃色、久しぶりだなー!」
「お久しぶりですマキナ博士」
「マキナさんお久しぶりです」
マキナと呼ばれた人、獣人ではなく人の姿が目の前に存在していた、白衣の下は小豆色の様な服を着て中折れ帽を被っている、その身長の高さにびっくりした。
「おっと、そちらに居るのはもしや……」
「ロピカさんです」
「あの『ロピカシア』だね! 急な連絡だったが水色、ご苦労」
「えへへ、ありがとうございます」
「もう連絡積みだったんですね、水色」
「ごめんね、せっかくの大収穫だったから」
嫌な汗が止まらないがここから逃げるすべは……あるが、ここまで来たならもっと事情を知りたい、何も知らなければ二度も三度も捕まりそうだ。
「さて……」
「マキナ……これは歓迎会でいいのかな」
「歓迎会さ、『ロピカシア・アナスタシス』の戦力を図るための楽しい楽しい歓迎会……伝承のアナスタシスが目の前に居るとついテンションが上がってしまうね」
「アナスタシス? アナスタシアじゃなくて?」
「いいところに目を付けるね、この施設を見ての通り通説はアナスタシアだ。まあこれ以上語っても何も意味は無いから、さっそく実験を始めようじゃないか」
「かしこまりました」
「りょうかいっ」
水色と桃色は僕の両手を引っ張り階段を降りていく、抵抗するも予想以上の力で握られ逃げることもできずにこの部屋の奥の広い研究施設に連れて行かれる。下からでもコンピューターのある部屋のガラス越でマキナがよく見える。
「戦闘実験を開始してくれ、死なない程度でよろしく頼むよ」
「死なない程度ですね」
「殺しちゃダメなんだ……」
しょんぼりした表情の水色、お願いだから殺さないでね? 二匹はドレスから武器を取り出し構える、水色は斧を、桃色は錘付きのチェーンを取り出す。
「なあなあで連れてこられちゃっていいのですか?」
「僕達ロピカを倒しちゃうんですよ」
「荒行時になっても平気だからここまで連れてこられちゃってるんだよ、水色にはちょっとがっかりだけど」
「き、嫌いにならないでね……」
「今後によるかな……!」
低姿勢になり二匹突撃を回避しようと構える。水色の寂しそうな声が聞こえてほんの少しの時間で距離を詰め斧が振り下ろされる、瞳孔が開き吸い込まれるような瞳が見えるほどの至近距離。スマホのリミデットモードを起動すると自動でステータスがALL20に変化し絶対の回避を手に入れる。斧を既の所で回避し魔法を撃ちこむ。
「レイ・フォール!」
「回避、してくれてよかった……」
手のひらから放たれる6つの青い光が水色を避けながら遠くへ放たれる。イメージするのはブーメランの様に戻ってくる閃光、水色を壊してしまうことを気にして威力は弱めに……。放たれた青い光が戻ってくる、イメージ通りに水色に命中……はしなかった、水色も回避行動を取り空中で器用に回避する、ドレスにすら光はカス当たりせず壁に当たり消滅する。
もう1匹、桃色が中距離の間合いに立ちチェーンを飛ばしてくる。それを難なく避ける。
「ロピカさんは魔法使いなんですか?」
「魔法使い、なのかな?」
自分でもよく分かっていない、剣を生み出し振り回すだけでもそれなりに大人を切ることが出来てしまった。スマホ能力で万能型のチート野郎ならお言葉に甘えてこの場を一瞬で沈めることもできそうだが。
「魔法使いなら女の子なのかな」
「ふたなりかも」
「えっち……」
「ハイブリッドですね」
「な、何を言っているの?」
二匹が訳の分からないことを言い始めた。
「魔法使いなら女の子ってどういうこと?」
「魔法は女の子の特権なの」
「だから僕達は武器を振るう」
桃色が投げ僕が避けたチェーンを水色がキャッチ、広い空間がチェーンで仕切られる。そのまま僕を中心にとらえ左へと走り出す。咄嗟に真上に飛びチェーンから逃れようとするが。
「引っかかったね」
「制御できない空中なら落とすのも容易い」
チェーンは縄跳びの様にしなり僕のおなかに鈍く命中する、気持ち悪い感触がする。水色は錘の付いたチェーンを空中で桃色に投げ僕を拘束しようとする。
「拘束からの一撃必殺が私達の必殺技」
「でもロピカさんのが気になるから拘束するだけ」
錘付きのチェーンを投げた後の水色は地面にしなやかに落下しお辞儀をする。無論僕は諦めていない、にやりと頬を吊り上げ魔法をイメージする、二匹の足を拘束する氷、チェーンを壊す氷の剣。
「アイス! アイスソード!」
地面は冷たい冷気を放ち二匹の足を拘束する、そして僕の背中側からあの時の氷の剣が現れチェーンを破壊……できない。
「足を固定するのは流石ですね」
「でもロピカさんの魔法はチェーンを壊すことは出来なかったようですね」
「ぐうう……」
そのまま僕は地面に落とされチェーンに拘束された。抵抗することはまだできる、もう一度レイ・フォールをイメージして他にも攻撃的な魔法を……
「顔が真っ赤ですね」
「白い息がいっぱいだね、ロピカさん」
「素晴らしい! よくやった水色に桃色、後は好きにしていいぞ。気になるだろう? ロピカシアの性別が」
体がぽかぽかと暖かい、それに胸が高鳴り全身がむずむずする。股の辺りが敏感で気になって仕方ない、匂いだって……甘い。
「ここからでも感じるほどの匂いだなんて」
「えへへ……ロピカさん早くこの氷解いてほしいなぁ」
身に覚えはあった、初めて都市にたどり着いたあの時、僕はむらむらとこの匂いが抑えられなかった。まさに今、発情に囚われてしまっている。興奮が抑えられない、二匹のケモロリが僕のことを見ている……発情しちゃっている事なんてばればれだって考えると僕の雄がびくびくと震える、じんわりと響くもどかしさ、早く触りたい、触られたい。この匂いが僕をおかしくさせる、いや、僕がおかしいから、発情しているからこの匂いは出るのか? 僕はおかしくなっちゃったのだろうか、1日1回発情しないと収まらない体、ケモショタの僕のエッチな脳味噌ではよく考えられなくなっちゃった、ふわふわする。早く襲われたい。
「ふーっ……ふへ、ふーっ……」
氷は溶け二匹は自由に動き出す、こちらに向かって歩き出す。にやにやとかわいい顔が僕をいぢめたくてたまらない表情をしている。
「ロピカさんのエッチな匂い」
「ロピカさんのエッチな場所」
「私に嗅がせて……?」
「僕に触らせて……?」
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