1人が本棚に入れています
本棚に追加
Prologue
OMG.
Fxxk.
まただ。またオーディションに落ちた。今年に入ってから五度目。もう三月だってのに──。
エージェントのダンカンの甲高い声をこれ以上聞きたくなくて、電話を溜息と共に切る。八十年代なら受話器を下ろすところだが、今はスマートフォンの時代。タップ一回で通話は終わる。
喫茶店で時間を潰すのもそろそろ飽きてきた。スターバックスのドアから、晴天のロサンゼルスへ繰り出す。
故郷のペンシルベニアならこの時期まだ肌寒いだろうが、今日のロスは半袖でもいいくらいだ。念のため、バレないようにサングラスをかける。
いい加減、ダンカンに嫌気が差してくる。アイツは俺に合った役を勧めてこない。持ってくる話は端役ばかり──クソ野郎、そろそろクビにしてやる。
俺は主演映画二十本、出演映画五十本以上のベテランだ。子役から這い上がってきたから同年代の役者よりキャリアも長い。
そんな俺に、映画開始から十五分程度で殺されて退場するような役をやれと?
だが最近は、ダンカンの静止を振り切って、主演のオーディションを受けても、全く候補に挙がらず、すぐ落とされるのが現状で。
(もしかして)
その言葉の続きを考えることを無理やり止める。
〝もしかして、ダンカンだけの所為にできないんじゃないか?〟という疑惑。それは少しずつ俺の頭の中で、夜中の電灯にたかる虫みたいに湧いてきていた。
人混みの中で立ち止まり、ブランド店のショーウィンドウに映る自分の姿を見る。
こいつは誰だろう? 本当にコイツが、あの名声を馳せた、オーガスト〝Fxxking〟ワイルダーなのか?
鏡写しになったもう一人の俺が警鐘を鳴らす。〝現実を直視するなよ。胃を壊すぜ〟と。
俺は、もう一人の俺に答えた。いや、客観的に見ろ、オーガスト。こんなくたびれた四十八歳の男が、主役を張れるか??
答えはNOだ。
最初のコメントを投稿しよう!