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あはは、と笑い飛ばすアトソンくんですが、までこさんは大真面目です。
「和歌に込めるのはその時感じた小さな感動、あるいは心の動き。そして和歌は文字でありながら読む者の心に情景を映しだす。
たとえ心の中の景色とて、歌が詠まれた時と同じ景色に身を置きその歌を聞くならば。――“詠み人”と“読み人”、同じ感動を共有することも出来ようものだ。
〈秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる〉
私はこの歌に秋の風情を感じ、秋風を肌で感じることで藤原敏行が歌に込めた思いに共感したのだよ」
「同じ状況をイメージして共感っすか? う~~~ん……俺には風が涼しきゃ『涼しいな』としか感じないっすけどね」
アトソンくんはいまいちピンとこない様子です。
それにはまでこさんも、さもありなんと頷きます。
「すべての歌が誰でも隔てなく共感できるわけではないさ。されど歌から風情や情景を読み取ることは和歌を知る上でも欠かせぬ技能。ここはひとつ、君にも共感しやすい和歌を教えるから、試しに挑戦してみたまえ」
「ええーっ? 俺がっすかぁ?」
「口で言うほど難しいことではないよ。まずは歌に読まれた風景を思い浮かべてみることだね」
それではと言って、までこさんは取り出した紙にペンでさらさらと和歌を一首書き上げます。
〈高松の この峯も狭に 笠立てて 盈ち盛りたる 秋の香のよさ〉
「はい! わかりません!」
さっそく音を上げるアトソンくんです。
「高松というのは春日山の南に位置する高円山のことだと言われている。
〈高松の この峰も狭に〉――要するに『この山の峰も狭くなるほどに』と歌いだしているのだよ。狭くなるほどに、何があるのか? 答えは続けて歌われている。さて、なんだと思う?」
「サッパリわかんないすよ! 俺古文の成績底辺なんすよ!」
「君の成績表が秋の嵐山よりも真っ赤っかなのは承知している。端からわからないと思うのは単なる苦手意識によるものだよ。自分がその場にいるつもりで今一度よーく読んでみることだね」
「自分がその場にいるつもりで、っすかぁ? えーと……俺は山ん中に立っていて、周りには……カサ? カサが立っている? それで秋の香りがいい? ……カサから秋の匂いがするってことっすか?」
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