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割れるような頭の痛さで目を覚ました。
カーテンの隙間から外を覗くと、夕暮れに夜の帳が降りようとしている。半日以上はベッドの中で寝込んでいたことになる。まだ夢現の中、鉛のように重い体を横たえていた。食事をとるのも億劫なほど、体調が悪い。明日も会社を休まなければならないだろうかなどと考えながら、ぼんやりと天井を見つめていた。何か口にしようか、時刻だけでも確認しようかと思い、ベッドから起き上がろうとした。
「ウッ…」
頭を持ち上げた瞬間、今度はむかむかした吐き気とともに、酸が胃壁を食道の手前まで、這い上がってきた。パタリと再びベッドに倒れこむ。痛みと重さが体を支配している。再び浅く不快な眠りに意識を明け渡し、時間も食欲も全ては意味をなさなくなっていった。忘却の川の彼方に全てを押し流してしまいたかった。
そして、息苦しさと鈍い頭痛に苛まれながら、眠りにゆるゆるとそしてきりきりと体を縛りあげられていた。
カーテンの隙間から差し込む強い光で目を覚ました。幸一の体と脳が覚醒と睡眠の間の檻にとらえている。
(逃がさないよ・・・絶対に逃がさないからね。)
美悠の声を聞いた気がして、幸一はゾクリとした。あれほど素直で優しい女はいなかった。大学の共通の友人のつてで始めて美悠に会った時、正直心惹かれはしなかった。ファッションは人並みで、不細工ではないが、顔立ちはパッとしない。最初は地味な女だと思ったが、付き合いが長くなってくると、どこか不思議な安心感があった。恋人の関係になってからも、美悠はあまり喋る方ではなかった。だが、その静けさとしとやかさが逆のこれまでの女とは違い、幸一にとって新鮮だった。美悠はどんな時も幸一に反対したことは無かった。時折見せるクシャリとした天使のような笑顔も好きだった。他の女性と食事に行ったとしても、違う女性と肌を重ね合わせる夜があったとしても、美悠は変わらずに幸一を待っていた。(美悠は幸一の裏切りに気づいていただろうか―絶対に気づいているなと感じた瞬間もあった。)その優しさに甘んじながら、時にその執念にも似た愛が幸一には足枷となった。あの女は、俺を呪っているんだ、と瞬間的に幸一は感じた。愛しているようにみせかけておいて、あの女は幸一に呪いをかけていた。そうだ、あいつはいつだって、俺を呪っていた。好きだったのに、我慢できなかった。愛していたのに、美悠の優しさが今では重かった。このままでは逃げられないと感じた。幸一はただ、自由が欲しかった。それが二人にとって最低の幕切れだったとしても。後味は悪かったが、後悔は無かった。ただ、自分の子どもが他の人間の胎内にいること。そのことを考えると、幸一は吐き気がした。
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