いわくつき物件

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いわくつき物件

不動産屋の車で到着した場所は  森の中の一軒家 昭和時代  それも戦後まもなく建てられたような 木造平屋建ての  隣のトトロに出てくるような家 高尾山口駅まで 自転車で30分だという 「ここ ピアノあるんですよ」 「えっ? ピアノ?」 木製の不思議な彫刻が施された  大きな玄関の扉 開ける時 ギギギギィ きしむ音が怖い 扉を開けると  比較的広めのコンクリートの玄関に 古びたスニーカーが1足  きちんと揃えて置いてある 「ああ まだ清掃してないんで 前の住人のものかな」 不動産屋は そのスニーカーを無造作に  横によける 「埃だらけだから 今日は靴のまま上がって下さい」 私たちは玄関の上がり(がまち)に 靴のまま 足を上げる と・・・外は蒸し暑いのに 妙な冷気を感じる 「ああ これ そうなのかな・・・」 不動産屋は少し青い顔で  私の目を覗いて言った 「ここ いわくつきの物件ですから」 「いわくつき? どういう意味ですか?」 「出るらしい・・・お化け屋敷って話です」 「どういう感じなんですか?」 「さあ 具体的なことは ちょっと・・・」 玄関前から真っ直ぐ 薄暗い廊下があって  廊下の右 手前はトイレ トイレの次は洗面所 その奥は風呂 トイレも洗面所も 外国製の陶磁器か? 白地に藍色の唐草模様  古いけれど洋式の水洗トイレ ホコリは溜まっているが 不潔な感じはない お風呂は壁も浴槽も 白いタイル張り 高めの小さな窓から 森の緑が見える 玄関の左側には広い洋室 不動産屋の話では24畳あると言う 部屋の広さの割に小さ目の 上下に開閉する窓が二箇所あり 木漏れ日が射し込んでいる
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