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ピアノを弾いてみる
何となく明るい曲で
自分を励ましたい気分
ショパン ノクターン第2番
素晴らしい響き
天井の高い 広い部屋中に 音が回り
まるで どこかのコンサートホールで
演奏しているかのような音響に酔いしれる
同じ曲を いろいろに演奏してみるうち
自分の指や手が 少し大きくなったような
不思議な錯覚にとらわれる
ショパン スケルツォ第1番
ショパンが21歳の時に作曲したという曲
やや同じ年の人間が こんな音階や和音を
どうして創造し得たのだろうと
何度聴いても 弾いても 涙が出てしまう
このピアノで弾いてみると まるで
自分がショパンになったかのような
激しさ 優しさ 光の渦 陰の静けさが
自然に体の奥底から 湧き上がってくる
私は夢中になり 様々な曲を弾き込む
暗くなるのも忘れ 夕闇の紫色が
部屋全体の輪郭を失わせる時間まで
私は 音と戯れ 音階に身をゆだねる
誰かが玄関チャイムを鳴らす
そんな設備 あったのだろうか
玄関の照明のスイッチを探す
薄暗い 黄色っぽい照明が点灯
写真のノリユキさんに似た男性が
あのスニーカーを履いて
玄関に立っている
玄関の靴箱の上には
キャベツ ソーセージ
フランスパンなどが詰め込まれた
大き目の布製のバッグがあり
彼は私を見るとすぐ 玄関の扉を開けて
出て行ってしまう
「あの・・・紀行さん」
呼び止めてみる
玄関の扉を開けて 外を見回すが
もう姿は確認できない
あきらめて玄関の扉を閉め
自分が靴を脱ごうとした時
あのスニーカーは また所定の位置に
きちんと揃えられて 置かれていた
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