自転車

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夜中は さすがに勇気がなく お風呂を使用しなかったので 朝シャワーを浴びていると 玄関チャイムが鳴る 「朝から誰かしら?紀行さん 代わりに出てくれないかしら」 ふざけて そんなことを言いつつ バスタオルを巻いただけの姿で 玄関まで行ってみる 玄関の靴箱の上に ダンボールが置かれていて キウイ ヨーグルト クロワッサン たまご ベーコン 牛乳が入っている それらの下に  ロープ状の自転車の鍵が入っている 私はバスタオルを巻いているだけの 姿ではあるが 森の中の一軒家だし と 玄関の扉を開けてみる やはり 自転車がある 新しい自転車ではない 高級そうな ステキな自転車 後で調べたら ブロンプトンという 30万円くらいする自転車だった    「自転車ありがとう 紀行さん」 声に出してお礼を言う 正直 嬉しかった 感動さえした 私は服を着て朝食を済ませ 紀行さんが用意してくれた自転車で 快適に駅に向かう 変速がついているので  余裕で 駅まで20分で到着 それにしても 恵まれ過ぎだ こんなことが現実にあるなんて どう考えれば良いのだろう 大学の帰りに 交番により  自転車の登録ナンバーを調べてもらう 「渋沢紀行さんの名前で登録されています」 調べるとすぐわかるものなんだ 「そうですか」 「あなたはどなたですか?」 「渋沢紀行の彼女です 一緒に住んでるんですが 今朝 この自転車 初めて彼が用意してくれたので どこから持ち出したのか気になっただけです 彼のものなら安心しました」 「そうでしたか いい自転車ですね 気をつけてお帰り下さい」 次に私は不動産屋に電話 家主さんと連絡取りたいとお願いする 「家主さんは確かノルウェーの山奥で難しい仕事をしていて簡単に連絡はつかない」 と 妙な答えが返ってきた 「家主さんとは別に管理人さんがいるのではないですか?」 「そうした情報は聞いておりません やはり 何か問題ありましたか? 住み続けるのは難しいですか?」 「いえ 快適です 素晴らしい物件をご紹介いただき感謝しています」 紀行さんは 幽霊ではなく 実在しているのではないか? 何か深い理由があって  姿を見せたくないだけなのでは? そうでなければ 毎回届く 生鮮食料品は どういうことだ? 誰かが 鍵を持っていて あの別荘を管理しているか 紀行さんが こっそり用意しているか どちらにせよ 私以外の誰かは 出入りしているのだ 誰が なぜ そんな ややこしいことをしているのか? まるで想像できないけれど 私は ピアノが弾けるだけで満足だ 不思議な環境ではあるが ありがたい環境である
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