嘆きの追憶

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出来事はいつも突然だ。学校の休み時間が終わる間際いつものように富士子は席について授業が始まるのを待っていた。あと5分もしないうちに授業が始まるというのにクラスの人達が一人の男の子を取り囲んだ。 ( 何だろう?) 富士子が不思議に思っていると、その中の一人が、 「 おまえの家って貧乏なんだろ!」 と、クラス中に響き渡る声で言った。 ( 何て事を言うんだろう。愚か者が。) 富士子が心の中で悪態をついていると、皆の前で家が貧乏と言われた京田君が、 「 うん、そうだよ。僕の家は貧乏なんだ。」 と、ニッコリ笑ってその子に答えた。富士子は驚き、もし自分だったらあんな風に笑って答えられるだろうかと自分に問いながら京田君を見つめた。 (多分あんなに笑ってられない。私だったらいつも親からされているように大きな声を出してわめいて怒鳴ってしまう。そんな事を人にしてはいけないんだ。そんな人は誰もいない。) 「フン貧乏人のくせにヘラへラ笑って!」 玉井さんが言うと一緒にいた男子達がいっせいに、 「貧乏人、貧乏人、貧乏人、」 と、5人で囃し立てた。富士子は身体中の血が頭に一斉に入ったのかと思うくらいに頭がカッカとした。その時チャイムの音がして先生が教室に入って来て授業が始まった。
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