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待ち合わせ
ついに、この日がきたーっ!
学校が休みの日曜日。俺は駅前にいた。
腕時計を見ると8時30分。待ち合わせの時刻より20分も早く着いてしまった。眠れなかったうえに早起きしちゃったからな。
だって、今日は待ちに待った彼女との初デートなんだよ!
三日前、放課後の教室であいつがいったひとことがきっかけだった。
「テレビでデパートのケーキバイキング特集を見たんだ。イチゴタルトもガトーショコラもすごく大きくて、おいしそうだったなあ」
「それなら週末行こうぜ。列車に乗ってさ」
さりげなくデートに誘えた。この瞬間を待っていたんだよ。
俺たちが住む町には映画館もボウリング場もない。カラオケボックスはあるけれど、俺は音痴だから誘えない。
『女の子がデートに行きたいところランキング』をネット検索したら、夏祭りや公園が出てきたけれど、いまは九月で時期が過ぎたし、公園デートは会話を続ける自信がない。
運動部の彼氏お決まりの言葉である「練習試合、観に来いよ」を言ってみたいが、残念なことに俺は補欠以下の存在。できることなら彼女の前で一本決めてみたかったよ。
細くて男らしくない外見でも、柔道着姿を見てくれたら惚れ直してくれるはずだろう。
「中山くん、かっこいい!」
……ってさ。
先輩たちにひやかされても「俺の彼女です。何か文句ありますか」って堂々と言えるし、むしろ自慢したい。まあ、試合を観に来てもらうのは次の機会にしよう。
つきあって半月。今日俺たちは新たな段階に進む!
「おはよう、中山くん。早かったね」
「よお……お、おお!」
彼女がやってきた。
肩が出ているピンクの服に白のショートパンツ!? しかも髪をおろしている!いつもは縛っているのに。ちっちゃいリュックも小柄な彼女によく似合っている。
「変かな、この服」
彼女はショートパンツの裾を引っ張った。
「いや……いいよ。うん、すごくいい」
ふとももがまぶしすぎる! ショートパンツは制服のスカートより短い。肩なんかつるつるしていて、いますぐにでも抱き寄せたい。
このおしゃれは俺のためだよな、そうだよな!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
ごちそうさまです!
俺は咳払いした。
気をつけよう。いやらしい心を悟られてはいけない。あんなことやこんなことをしたいけれど暴走したら逃げられる、とういよりフラれる。
大人への階段はゆっくりと着実に踏もう。まずはステップその1。
「ほら、行くぞ」
俺は彼女の手を引っ張った。
「痛いっ」
「あ、ごめん!」
慌てて手を離す。
うわあ、「自然に手をつなぐ」が「強引に手をつかむ」になっちゃったよ。つい試合モードになった。
相手は女の子。力は出しちゃだめだ。
やさしく、やさしく。
「悪かったな。手、つなごう」
「うん」
あれ、なんかこいつの手ちっちゃいな。さっきはすぐに離したから気づかなかったけれど。それに……。
「手、つめたいぞ。寒いのか」
「中山くんの手があっついんだよ」
俺の手は熱いのか。そう意識した途端、汗が出てきた。
こんなんじゃこれから先、こいつといろんなことができないよな……あ、まずい。想像していたら汗が止まらない!
ぜったいあがっているってバレている……。でも、聞けない。
言葉少なに俺たちは列車に乗った。
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