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と、途中で手が止まった。
でもそれは、最後のページ。
しばしの間硬直していた私は、冊子をひっくり返してもう一度最初から読みはじめた。
1回、2回……いや足りない、3回目……
こんな、こんな繰り返す読む漫画があるだろうか。
そんな疑問がよぎりながらも、私の手は止まらない。
読むのが止まらない。
驚いて思わず見るのを拒否してしまった肌色に釘付けになる。
もっと見たい。
もっとくっついてほしい。
絡んでほしい。
推し同士で、その美しい肢体を、顔を、寄せ合って――
「ごはんよー、おりてきなさーい」
「はーい!」
母親の声に現実に引き戻された私は布団を勢いよくめくりあげて叫ぶ。思わず冊子を持ちながら万歳するという何とも滑稽な姿だったことだろう。
布団の中という薄暗い中で懐中電灯の明かりのみで読んでいたからか、本屋から帰ってきたときは明るかった空がもう夕暮れでオレンジ色に染まっていて、布団から出たらまるで時間をトリップしたかのような気分になった。
私は、ぽかぽかに温まった心地よい熱を持つ自分の身体が、布団から出たことにより急速に冷えるのを感じながら、手にしっかり持っていた冊子に視線を落とした。
禁忌の魔術に手を触れた気分だった。
そして私はその禁忌の魔術の虜になった。
冊子をそっと膝元に置き
私は、顔を両手で覆いながら天を仰ぐ
そのまま深く、鼻で息を吸う
天にも昇れてしまえそうな気分の私の口から息と共に洩れたのは、腹の底からの感情。
「さいっ……こう」
ああ、私は。
出会ってしまった。
男と男が絡む漫画。
BL本に。
fin
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