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はやる気持ちで帰る道のりはとてつもなく長く感じたが、数分で私は帰宅した。
すぐさま部屋に入ってカーテンとドアのカギを閉め、わざわざ布団の中にもぐって懐中電灯で冊子の入った袋を照らす。
とりあえず何故か、読んでいる所を他の人に見られるのは恥ずかしいことだと思った。
でも家で読めば、声を出しても大丈夫だし、どんな表情になってもいい。
心置きなく読める。
いつもならすぐさま新刊を読むのに、私は分厚い方の冊子を袋から取り出した。
<溺愛特集>
冊子の推しキャラの上に、その文字がデカデカと書かれていた。
端のスペースに作家らしき人の名前が羅列されていたが、その中に新刊の作家である憧れの方の名前はなかった。
でも、気にならなかった。
なんでもいいから早く読みたい。
私の心に瞬く言葉はそれのみ。
冊子を開くと、さっそく推し様の普段見ないドアップが現れる。
「はぁ……いい」
感嘆のため息を遠慮なく漏らす。
ここは本屋ではない。
自宅であり、自分の部屋。
何を言っても、何をしても、恥ずかしくない唯一のテリトリーだ。
私はどんな細かい絵も見過ごすまいと目を凝らしながらどんどんページをめくっていく。
手が止まらない
目がせわしなく動く
読むのを止めたくない
肌色のページがきた。
でも、今度は一切逸らさない。戸惑わない。
本も閉じない。
ただひたすら、真剣に、読む。
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