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その視線と、今の衝撃に耐えられず冊子を戻して逃げた。
今のは何だと悶々としながら、目当ての新刊をまだ手に持っているため書店からは出ず普段回らない本棚の列を目的もなくぐるぐると歩き回った。
何で裸だったんだろう
何で、頬が2人とも赤かったんだろう。
何で、2人は――
先ほどの衝撃シーンを思い出し顔から火が出そうなほど熱くなる。
心臓がバチで激しく叩かれる太鼓のようにうるさい。
私が見たものは、いったい、なに?
碌に周りを見ず歩いていたからだろうか。
私の足は、気づけばぐるっと一周して元の場所へと戻ってきてしまっていた。
流石にこんな短時間で戻ってきてしまってはいよいよ怪しい人だ。別の棚に移動しようと踵を返そうとして――私は、はたと足を止める。
数分前私がいた場所に、黒髪の長髪をさらっと背中に流した美しい女性が立っていた。
その手に持っているのは、間違いなく私が持っていたもの。
思わず、どんな表情をしているのだろう、という好奇心がわき、反対側の本棚へ行って全く興味もない乗り物特集を手に取り開きながら、そっと彼女の様子を覗き込んだ。
「フフ……」
艶のある桃色の唇から、小さな笑みが漏れた。
恍惚とした表情は、私に見られていることを気づくことなく冊子の中の絵に釘付けになっていた。
その姿から、彼女が冊子を読むということを心から楽しんでいることが伺えた。
その、抑えきれない狂喜に打ち震えている様子も垣間見える彼女は数秒熟読すると、その本をそっと閉じ、鼻歌交じりにレジへと迷うことなく向かって行った。
買うの!?
という言葉を叫ばず飲み込めた自分をほめたい、と私は思った。
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