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もしかして見間違いだろうか? と持っていた冊子を元の場所に戻して彼女のいた場所の棚を見ると、間違いなく先ほどの衝撃的な冊子はなかった。
けれど、同じ冊子が1冊残っていた。
心底楽しそうな様子の彼女を思い出して、鼓膜にドクンという鼓動が聞こえた気がした。
思わず、あたりを見回す。
みんな、本に夢中だ。
気づいたら、生唾を再びごくりと飲み込んでいた。
――ちょっとだけ
だって、全然読んでないし
せっかく、あるし
色んな理由をつけながら、私は冊子へと手を伸ばす。
引き抜くときの重みが、感じたことのないようなズシっとした重みに感じた。
手に取って、いつもなら推し様の表紙が堂々と描かれていようが恥じることなく、いやむしろ誇らしげに持って行っていたのに、私は懐に隠すように持ちながら再び辺りを見回した。
素早く動かしたせいで、首がちょっと痛かった。
何でそんなに周りを気にしたくなるのかはわからなかった。
ただ
別に、万引きするわけではないのに。
とても悪いことをしている気分になっていた。
私は、その場で読もうか、と冊子を開こうとしたが。
――やめて、新刊と重ねる様に持った。
そしてすぐに、それらを持ってレジへと足を運んだ。
新刊を買おうとする時より早足になる自分の足。
「お、お願いします!」
いつもにこやかにサラっといえる言葉が、今日は緊張が入ったせいで裏返り微妙に噛んでしまった。
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