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「1320円です」
「え」
金額を聞いて、背中に冷たいものが伝うのを感じた。
まさかの、新刊の倍の値段。
少年なんたらが安いから、てっきり同じくらいだと思ってしまっていた。
元は新刊しか買うつもりのなかった私は慌てて財布を取り出す。
もし、お金が足りなかったら
買えない
レジに持ってきたにも関わらず「すみません、お金が足りなかったです」と棚に戻しに行くのは私にとってはとても恥ずかしい行為
――けど、私はそんなことよりも。
買えないかもしれない、という不安に押しつぶされそうになっていた。
財布を勢いよく開くと、チャリンという小銭同士がぶつかり合う音がした。
途端に、私の心は照らされたようにパァァと明るくなった。
見てみれば、100と書かれた小銭が4枚ある。
足りる。
「これでお願いします!」
今度はハキハキと言葉を口にしながら、私は嬉々としてお金を差し出した。
お金を払い終えると、大体そのまま袋に入れて手渡してくれるのだが、今回は違った。
「カバーおかけしますか?」
店員のお姉さんが、分厚い冊子の方を私に見せながらにこやかに尋ねてきた。
その表紙を見た瞬間、肌色の彼らを思い出しカッと体全体が熱くなるのを感じながら私は「い、いい、いいです!」とどもりながら答えた。
「かしこまりました。そのままですね」
お姉さんはにこやかな笑顔を浮かべたまま、袋の中に冊子を丁寧に入れた。
特に、分厚い方は慎重に。
その動作に、どうしてそんなに大事そうにするのだろう? と疑問を持ったが、とにかく手に入った喜びでいっぱいで「ありがとうございます!」と声をあげ私は本屋を出た。
そう、私は出会ってしまったのだ
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