1.怪しい男

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1.怪しい男

 篠崎(こころ)は電車に乗っている。電車内はまばらだ。携帯電話を見つめている人、天井を物憂げに眺めている人…  いつもより遅い帰宅になりそうだ。学校で文化祭に向けた出し物の用意のために遅くなってしまった。お母さんに怒られるかも。    心が帰宅後の憂鬱なことを考えていると、電車は目的地に着いた。わたしの住む町の駅だ。電車の扉がひらき、出ようとすると誰かにぶつかった。  ドンッ  「ごめんなさい」心は見知らぬ誰かに向かって謝った。  「いや、こっちこそごめんね」男は行った。  男はTシャツにジーンズという格好で無精髭を生やしている。年齢は30代ぐらいだろうか。胡散臭い雰囲気が漂っている。  心は軽く会釈してその場を立ち去ろうとした。と、その時男が話しかけてきた。  「ちょっと待ってよ。話したいことがあるんだ」  心は言葉を無視して改札口につながる階段に向かおうとした。すると男は心の腕を掴んできた。  「ちょっと、離してよ。係員の人呼びますよ!」  「ごめん、ごめん。話しだけでも聞いてよ。お願いだから」  「なんですか、話って」  心は男を睨みつけている。男は慌てて自己紹介をした。  「俺は犬神。君は篠崎心ちゃんだよね」  「はぁ、なんでわたしの名前知ってんの、あんた」  「学校からつけてきた」  「ストーカー!?」  「違う、違う。俺はきみに頼みたいことがあって、きみをつけてたんだよ」  「それ、ストーカーじゃん」  「違うよ。きみに頼みたいことがあるんだよ」  「何なの?」  「俺と悪霊をやっつけにいかない?」  ヤバイやつだ。ストーカーどころじゃない、電波男じゃん。完全に無視しよう。  「待って、俺のことヤバイ奴だと思ってるでしょ」と犬神は言った。  「当たり前じゃん。いきなり悪霊とかなんとか言われたらそう思うでしょ」  犬神は演技ぶった咳をしてから言った。  「きみは俺と悪霊退治をすることになったんだ。きみにはその才能がある」  「はぁ」  犬神はポケットからなにか文字が書かれた紙切れを心に渡した。  「じゃあ、明日その手紙に書かれた場所で会おう。詳しい話はその時に」  犬神は心の肩をポンポンと叩くと改札口のある方に消えていった。    心はプラットフォームに1人残された。
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