5人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
1.怪しい男
篠崎心は電車に乗っている。電車内はまばらだ。携帯電話を見つめている人、天井を物憂げに眺めている人…
いつもより遅い帰宅になりそうだ。学校で文化祭に向けた出し物の用意のために遅くなってしまった。お母さんに怒られるかも。
心が帰宅後の憂鬱なことを考えていると、電車は目的地に着いた。わたしの住む町の駅だ。電車の扉がひらき、出ようとすると誰かにぶつかった。
ドンッ
「ごめんなさい」心は見知らぬ誰かに向かって謝った。
「いや、こっちこそごめんね」男は行った。
男はTシャツにジーンズという格好で無精髭を生やしている。年齢は30代ぐらいだろうか。胡散臭い雰囲気が漂っている。
心は軽く会釈してその場を立ち去ろうとした。と、その時男が話しかけてきた。
「ちょっと待ってよ。話したいことがあるんだ」
心は言葉を無視して改札口につながる階段に向かおうとした。すると男は心の腕を掴んできた。
「ちょっと、離してよ。係員の人呼びますよ!」
「ごめん、ごめん。話しだけでも聞いてよ。お願いだから」
「なんですか、話って」
心は男を睨みつけている。男は慌てて自己紹介をした。
「俺は犬神。君は篠崎心ちゃんだよね」
「はぁ、なんでわたしの名前知ってんの、あんた」
「学校からつけてきた」
「ストーカー!?」
「違う、違う。俺はきみに頼みたいことがあって、きみをつけてたんだよ」
「それ、ストーカーじゃん」
「違うよ。きみに頼みたいことがあるんだよ」
「何なの?」
「俺と悪霊をやっつけにいかない?」
ヤバイやつだ。ストーカーどころじゃない、電波男じゃん。完全に無視しよう。
「待って、俺のことヤバイ奴だと思ってるでしょ」と犬神は言った。
「当たり前じゃん。いきなり悪霊とかなんとか言われたらそう思うでしょ」
犬神は演技ぶった咳をしてから言った。
「きみは俺と悪霊退治をすることになったんだ。きみにはその才能がある」
「はぁ」
犬神はポケットからなにか文字が書かれた紙切れを心に渡した。
「じゃあ、明日その手紙に書かれた場所で会おう。詳しい話はその時に」
犬神は心の肩をポンポンと叩くと改札口のある方に消えていった。
心はプラットフォームに1人残された。
最初のコメントを投稿しよう!