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満開の桜が咲く季節。俺は、今年もひとり“墓参り”に行く。供物用には、缶ビールを二つと三色団子を袋に詰めて持って行く。 町外れにある墓場には、俺以外誰もいない。 墓の周りには、なんの木か分からない木が数本と、桜の木が一本植えられていた。 「よお、また今年も来てやったぞ」 俺は、土に埋まっている奴にそう言った。暮石の周りには、桜の花びらが散らばっていた。でも、気にせず、線香をあげる。 草の匂いしかなかった墓場に、線香の香りが流れた。 「……」 合掌をし終えて、買ってきた缶ビールと三色団子を供物台に置いた。 「お前が死んで、今年で三年迎えるぞ? 三年なんて長いって思っていたけど、案外短いんだな!」 誰に言うでもなく、土に埋まっている奴に話しかけた。 「……お前さ、なんで死んだんだよ。お前がいないとつまらないよ……」 俺は、暮石に彫られている名前に手を添える。 「……なあ、生きてて欲しかった。死んで欲しくなかった……」 サワサワと柔らかな風が吹く。桜の花びらが足元にやってきた。 「なんて、今更悔やんでも仕方がないな」 よし! と、自分に喝を入れて、持ってきた缶ビールを一本開けた。 「どうせ、お前、死んでも死にきれていないだろ? だから、今年も一緒に飲もうや! あ、そうそう、三色団子がさ安売りしてたんだわ、それ食べていいからな」 土に埋まっている奴に、無理矢理笑顔を向けて見せる。たぶん、生きていたら……。 『無理して笑ってんじゃねぇよ』 なんて、叱られそうだ。
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