おにぎり

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 そんな生活が3ヶ月も続いた時、身体に異変が起きた。  なんだか、何を食べても美味しく感じない。  いつものサンドイッチが味気ない。  お昼もパソコンを打ちながら食べられるモノがいい。  時には、手軽に取れるカロリーバーって事も珍しくなかった。  それから、しばらく経ったお昼休み。 「お前。昼休憩入ったか?」 「今からです」  カロリーバーを見せて、笑ってみた。  疲れた顔じゃ“花が咲くように”とはいかなかったけれど。 「バカ。そんなの飯じゃねーよ。社食、行くぞ 」  課長の“バカ”には、愛がある。  大人しく、課長に付いて行った。  しばらくぶりの社食。  たまには、フワトロ卵の親子丼でも食べよう。  あれ? 「あのっ。この親子丼、苦くないですか? 」 「はぁ? 普通だけど。…… お前、痩せたろ?最近、働き過ぎじゃないのか? 病院行け 」  今度は、何を食べても、(にが)く感じる。  美味しくないどころの話じゃない。  もう、食べるのが苦痛だ。  私、どうしちゃったんだろ。  ポロリと涙が落ちた。 「っ。でも、仕事が…… 」 「バカか! 仕事は替わってやれるが、お前の替わりはいないんだぞ! 病院行ってこい。命令だ 」  いつもは優しい口調の課長が、いきなり怒鳴った。 「……はい。すいません 」  驚きと、有難さと、情けなさで、嗚咽を我慢できない。 「バカ。泣くな。オレが泣かしてるみたいだろ 」  課長から、受け取ったハンカチはすっかり色が変わってしまったのだった。  確かに、何となく痩せたし。  週末、寝ても、寝ても、疲れが取れない。  階段の上り下りがつらい。  忙しさを理由に気が付かないフリをしていた。  そぼふる小雨の中、疲れた身体を引きずって、病院へ行った。  なんだか分からないが、沢山血液を取られ、沢山検査した。  診察に呼ばれ、診察室へ。 「栄養失調です。味の違和感は亜鉛不足」 「は?亜鉛?」 「はい。お米、食べてます?」 「忙しくて、バーとか、パン系が多いですね」 「やっぱり。お米食べましょう。亜鉛不足により、何を食べても、苦くかんじるのです」 「お米、ですか」
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