赤いハーブティー

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赤いハーブティー

「佐伯様……ですよね? 大丈夫ですか?」  矢子は電柱の陰で吐くようにえづいている佐伯ユカを心配そうに見た。  ユカは矢子に気付いて、泣き腫らした目を見開く。  そしてカッと赤くなると、口元を手で隠した。 「気持ちが悪いですか? 吐きそう?」 「あ、いえ、いえ、気にしないで」  ユカが気まずそうに後退りする。  その様子に、矢子は追求するのをやめた。構って欲しくない人間に詰め寄るほど、無神経ではないつもりだ。 「そうですか。では、私は失礼します」  そう言って踵を返し──  でも、本当に具合が悪くて遠慮している可能性を考慮して、顔だけ振り返ると付け加える。 「もし、本当にお困りでしたら、私の家へどうぞ。この近くですので」 「矢子さんのおうち……」  ユカが興味をそそられたのがわかった。  矢子は今度こそきちんと振り返って言葉を続ける。 「あまりお構いはできませんが。ハーブティーくらいはお出ししますよ」 「ふふっ……お家でもハーブティー飲むんですね」 「ええ。社割がききますから」  社割、の言葉にユカが吹き出す。  先程の青い顔から、少しだけ血色が戻ったような気がした。 「じゃあ、ご馳走になりに行ってもいいですか」 「もちろん。どうぞこちらです」  矢子は店でチェアへ案内する時のように、手のひらで丁寧に方向を指し示した。 いつも見ている動作なのに、顔だけは営業スマイルではなく無表情なことに、ユカがクスクスと笑いながら歩き出す。  その様子に矢子も少しだけ胸を撫で下ろしつつ、家路を辿った。
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